『第359話』 機会増える自己注射
注射は医師や看護婦が行うものと信じている人も少なくないが、糖尿病治療のためのインスリン注射などは患者さん自身の手で毎日のように行われている。
食べ物の中の糖質は消化分解されて、血液中でブドウ糖となり全身に運ばれて細胞や組織のエネルギー源になる。また、余ったブドウ糖は脂肪として蓄えられる。この一連の働きにはすい臓から分泌されるインスリンというホルモンが不可欠だ。
インスリンがなければ、血液中のブドウ糖は利用されることができずに血糖値の高い状態が続き、糖尿病となる。
薬を服用しても血糖値が下がらない人やインスリンがもともと分泌されない人には注射でインスリンを補う方法がとられる。
1日に2度3度と打つ人がいるため、最初から注射器に薬液が詰められ、決まった量だけ出るように工夫されたペン型注射器もある。
他にもヒト成長ホルモン剤や抗血友病ヒトグロブリン剤などが自己注射の対象になる。
また腎(じん)不全の治療として行われる腹膜潅流(ふくまくかんりゅう)は家庭透析と呼ばれるほど、簡単な操作で潅流液のバッグを交換するものだ。あらかじめ入院して腹膜カテーテルを腹腔内に埋め込み、ブドウ糖やナトリウム、カルシウムなどが配合された潅流液のバッグを毎日交換する。交換は学校や職場でもできるので、社会復帰が可能だ。
病院外とはいえ、その手技は無菌的に行う必要がある。これを怠ると確実に腹膜炎が生じる。注射用具や注射する場所はよく消毒するなど、清潔を心掛けなくてはならない。
今後、在宅医療が拡大していくと患者やその家族が注射を行う機会はますます増えると予想される。