『第364話』 米国は安全性を最優先
【医薬品の品質(上)】
人は自然界に薬にできる物質を求め、そして多くの化学物質を合成してきた。その中から医薬品として使用できる条件に合った物質を選び出していった。
医薬品として備えていなければならない条件とは何か。それは安全性、有効性、品質、経済性、必要性、倫理性、優越性だ。
この中で、品質については一部の専門家以外はあまり関心が向けられてこなかった。一般に医薬品の品質は製薬メーカーが保証しているという間違った認識が強いからだ。それゆえに、医薬品の品質を確認することをないがしろにする傾向がある。実際に試験をしてみると、よくこんな医薬品が流通しているものだと考えさせられる結果を得ることがある。
米国は経済至上主義の国だが、医薬品の品質確保に関しては、安全性を優先し、経済性を度外視した承認方法を取っている。
特にバルクといわれる医薬品の製造原料に関しては、日本の考え方とまったく違う。医薬品のバイブルといわれる日本薬局方には医薬品の規格が載っている。その中に、医薬品の純度や不純物に関する試験はあるが、バルクの品質に関する記載はない。つまり、どのような化学物質を原料としても日本薬局方の規格に合格さえすれば、医薬品として使用することができる。いわば結果主義といえる。
米国は、工程管理主義をとっていて、特定の合成方法を経て造り出された化学物質だけが、唯一バルクとして使われる。その理由は、合成方法が異なるとバルクに含まれる不純物の種類や量が違ってしまうからだ。その合成方法によって生じる不純物の成分をすべて拾い出して毒性試験を行い、安全性を確認している。従って、より安価な合成方法が見つかっても、すべての不純物に関するデータを集めて安全性が確認できないと、工程の変更を行うことができない。そのためにバルク製造メーカーは独占的に市場を得ることになる。
1989年、米国で合成したトリプトファンの不純物によって、事故が起こったことがあり、日本企業がばく大な賠償金を支払った。日本でも同様のことが発生する可能性がある。
医薬品の品質に関しても議論を進める時代を迎えている。