『第366話』 消化管運動を助ける山椒

ウナギのかば焼きには山椒(さんしょう)の粉末が添えられ、その独特な香りがウナギの風味と相まって、ますます食欲がそそられる。

山淑はジャパニーズペッパーと訳されていて、わさびとともに日本特有の香辛料として知られている。中国や朝鮮にも山椒に似た仲間は多いが、原植物が異なる。

山淑は七味唐辛子などに加えられているため、香辛料のイメージが強いが、れっきとした生薬だ。山椒の果皮にはサンショオールと呼ばれる精油が含まれていて駆風薬になる。駆風とは、腸内のガスを出す作用をいう。

山椒が入った漢方処方はさほど多くはないが、中でも大建中湯は消化管の手術後に処方される。

大建中湯は人参(にんじん)、乾姜(かんきょう)、山淑というよく知られた生薬3種類と粉末あめからなる比較的単純な漢方薬だ。この山椒のガスを出す働きが、手術後に必要になってくる。ガスが出るということは腸が活発によく動いていることの証拠だ。盲腸の手術後にガスが出たかどうか医師に尋ねられた経験のある人も多いと思う。

手術前には手術をしやすくするため、腸の動きを抑制する薬剤を投与する。手術後は速やかに腸の活動が再開することを期待しているが、動きが鈍いときは消化管運動促進剤を投与する。その中の一つが大建中湯というわけだ。

また脊髄(せきずい)損傷や骨盤骨折、脊髄骨折の患者さんをはじめとして、長期間ベッドに伏せることを余儀なくされたときも腸の働きは鈍りがちになる。このため、消化管運動促進剤が必要になることがある。

乾姜は生のショウガを蒸してから乾かしたものだが、山淑同様に辛味や刺激があり、胃腸の血行促進作用がある。人参は新陳代謝機能の低下を回復する。大建中湯はこれらの働きにより、おなかが冷えて痛い、腹部膨満感があって鼓腸(こちょう・グルグルという音が鳴る)の症状がある人に効果がある。