『第369話』 時に応じた感染症対策

法律は常に時代の最先端を先取りするというわけにはいかないようだ。伝染病予防法も時代に取り残された法律と言っても過言ではない内容だった。

先月2日、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が公布された。施行は来年4月1日からとなる。これに伴い、明治30年に制定された伝染病予防法は、102年にわたる役割を終えて廃止される。

コレラやペストなどと同じ法定伝染病としていた猩紅熱(しょうこうねつ)は、かつてイチゴのように舌がぶつぶつとなる特異的な症状を呈して恐れられた。しかし、今では原因菌が溶血連鎖球菌と分かり、抗生物質で短時間で治癒する伝染病となった。また、エボラ出血熱などの新たな感染症に対しては、海の向こうの出来事といった感じだ。そうした意味で、伝染病予防法は現代の治療水準から見れば、対策などを含めて違和感を覚える内容になっていた。

新たな法律は伝染病ではなく、感染症という表現を使っている。伝染病とは、特に伝染力が強い感染症のことをいう。感染症とは病原微生物が生体内に侵入して組織に定着、増殖し、生体に危害を加えている状態をいう。従って伝染病は感染症の一部に過ぎない。

興味深いのは、法律を制定した目的を法律の冒頭に記述していることだ。感染症を根絶することは人類の悲願だが、現実には未知の病原体によって発症する新興感染症や過去に制圧したかに見えた再興感染症が猛威を振るう可能性が付きまとっている。また、過去にはハンセン病などによるいわれない差別や偏見があったことを反省し、人権を尊重しつつ時代に即応した総合的感染症対策を推進することが述べられている。

伝染病予防法で規定されていた法定伝染病などの区分はなくなり、まったく新しく一類から四類感染症、指定感染症、新感染症という分類が設けられた。

感染症予防法の内容は少なくとも5年ごとに見直しが行われる。その間に一歩ずつ感染症撲滅に近づくことを祈りたい。