『第371話』 処方薬の転用危険
病気の治療法には、物理療法、食事療法、精神療法、外科療法、放射線療法などさまざまな方法があるが、薬物療法は病気の治療手段として欠くことのできない基礎的な治療法として、「当たり前」といった感覚で受け入れられている。
それゆえに、確実な薬の使用が軽んじられる傾向にある。薬の中には劇的に症状を改善する薬もあるが、病気の安定期や慢性疾患の場合では、薬の効果が発揮されていることを自覚しにくい。これが、薬の飲み忘れにもつながっていく。
昨年の12月から今年の3月に掛けて、全国老人クラブ連合会が1人当たりの老人医療費が「高い」「平均的」「低い」市町村を2カ所ずつ選び、その中から抽出した22,859人を対象に「高齢者の医療と薬に関する実態調査」が実施され、有効回答数14,076人の集計結果が9月に公表された。
これによれば、高血圧、心疾患、糖尿病などの慢性疾患を45%の人が持ち、病気やけがで通院している人が79%いた。診療科別では内科が74%と突出していて、眼科28%、整形外科21%と続く。
薬の使用状況は、94%とほとんどの人が薬を服用し、57%の人が3年以上処方薬を服用している。また、10年以上服用している人も22%いた。薬剤の種類は2、3種類が41%、4、5種類が24%となっていて、高齢になるほど服用する種類が増えている。
処方薬を医師の指示通りに使用していると回答した人が82%となっているが、薬が余るとした人が44%、このうちいつも余ると回答した人が13%いる。
特に興味深いのは「指示通りに使用しないことがある」および「ほとんど指示通りに使用していない」と回答した人の割合が薬の説明状況によって違っていることだ。紙に書いて説明を受けている人では非服用率が8%となっているのに比べ、説明を受けていない人では23%にもなっている。薬に対する説明と理解度の向上が服用率を上げていくために必要であることがうかがえる。
余った薬は、しばらくしてから捨てるが42%、そのままにしておくが36%で、すぐに捨てる人はわずか4%、中にはほかの人にあげると回答した人が1%いた。処方薬はその人だけの治療薬で、転用することは危険だ。薬が余っているということは医療費の無駄遣いというとらえ方もできる。
薬の効果や必要性について、理解を深め、治療効果を最大限に発揮させてもらいたい。