『第372話』 虫歯とミュータンス菌
虫歯は感染症である。何種類かの細菌が関与していることも分かっている。よく知られている菌に、ミュータンス連鎖球菌(以下・ミュータンス菌)がある。この菌はソルビットとマンニットという糖アルコールを分解する能力と砂糖を利用して水に不溶性のグルカンという多糖類を作る特徴がある。
砂糖はグルコースとフルクトースを各一分子ずつ含む二糖類だ。ミュータンス菌が作るグルカン合成酵素によって砂糖の結合を切って、そのときのエネルギーを利用してグルコース重合体のグルカンを合成する。切り離されたフルクトースの方はミュータンスが生存、増殖するときのエネルギー源として使われる。
ミュータンス菌が口腔内に生息し続けるには歯の存在が欠かせない。というのは、乳児や歯の抜けてしまった高齢者ではミュータンス菌の検出率が低く、硬い表面を持った支持体を必要とするからだ。
ミュータンス菌は乳酸や酢酸、プロピオン酸などの有機酸を産生し、これがグルカンの中に閉じ込まれたままになり、さらに虫歯を作りやすくしている。そのときのpHは5以下になる。pH5.4以下になると、エナメル質が脱灰してもろくなる。
最近、テレビコマーシャルでキシリトール入りガムなどが宣伝されてブームになっている。
キシリトールは1997年4月に甘味料の食品添加物として指定された。砂糖と同程度の甘味があり、溶解するときに吸熱するのでさわやかな清涼感が得られることや、血中のグルコース濃度に影響しないので糖尿病患者でも摂取可能といった特徴がある。しかし、一度に大量に摂り過ぎるとおなかが緩くなったり、下痢を起こすことがある。
キシリトールだけではなく、オリゴ糖などミュータンス菌が利用できない糖類を非齲(う)歯原性甘味糖質という。
虫歯を防ぐためには、物理的清浄作用を持っているだ液の分泌が十分にあることも必要だ。だ液が出にくくなる副交感神経遮断薬を服用している場合や、糖尿病がある人は特に定期的な歯の検診で予防したい。
また、ミュータンス菌が血液中に入ると、細菌性心内膜炎になることがある。従って、心臓の弁膜機能障害の既往症がある人は抜歯や歯石除去するときに歯科医にこのことを告げて、適正に処置することが必要だ。