『第373話』 自己免疫疾患とホルモンの関係
体にウイルスや細菌などの病原微生物が侵入してくると、体はそれを異物と認識して攻撃を開始し、排除しようとする。そのおかげで、われわれの体はしばしば感染をまぬがれている。
これはもともとわれわれの体に備わっている免疫系と呼ばれる防御システムが、体外からやって来る異物を自分自身のものなのか、そうではないのかを判断しているからだ。
特にT細胞と呼ばれる白血球は体中を巡回しながら、自己と非自己(異物)の区別をし、非自己と思われるものはすべて攻撃するようにプログラムされている。
ところが中には自分の細胞や組織、器官を異物と誤認し、攻撃して破壊するT細胞がある。自分自身の体の一部に対して抗体をつくってしまうのだ。すると抗原と認識された正常な細胞に対して、抗体がそれを排除しようと攻撃を開始する。こうして引き起こされる病気は自己免疫疾患と呼ばれ、かなり高い割合で女性に発症する。
慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、強皮症、クローン病、シェーングレン症候群などがこれにあたり、日本では特定疾患、すなわち難病の指定を受け、医療費の補助が受けられる。
関節リウマチは、関節が攻撃の標的となって炎症を起こし、こわばりや痛みとともに骨や軟骨が破壊されて変形を起こす。クローン病は腸管が攻撃され、激しい腹痛や下痢を起こす。バセドー病は甲状腺(せん)が標的となる自己免疫疾患の一つだ。
こうした自己免疫疾患は、残念ながら有効な治療法がなく、痛みに対しては消炎鎮痛剤を使用するといった対症療法が中心となる。症状が激しい場合は免疫抑制剤を投与するが、自己免疫のみならず、通常の免疫反応も抑えられるので、感染防御機構が甘くなり、感染しやすくなってしまう。
自己免疫疾患のメカニズムはかなり複雑ではあるが、圧倒的に女性に多く発症し、しかも思春期以降に症状が現れやすいこと、月経や妊娠といったホルモン量が変化するときに症状が悪化したり、落ち着いたりすることなどが知られている。こうした特徴がこれからの薬の開発のヒントになっていくものと期待されている。