『第376話』 長寿と腸内細菌
日本には長寿村と呼ばれるところが何カ所かある。長寿村の高齢者に検便検査を実施したところ、1日ですべての人の分が集まったという。通常、高齢者は腸管の働きが鈍りがちになり、お通じに時間が掛かるようになる。しかし、長寿村では便秘をする高齢者が極めて少ないのだ。
元気なお年寄りたちの食事はいたってシンプルだ。ご飯に、自宅や村で採れる野菜がほとんど。動物性タンパク質は毎日食べるわけではない。普段はイモ類や豆類、ゴボウ、ニンジン、コンニャクなどの食物繊維を多く含む食事を摂(と)っている。
腸内細菌には善玉菌と悪玉菌があり、健康なときはこのバランスがとれている。人間に有用な働きをしている善玉菌はビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などだ。臭いおならのもとや有害物質をつくる悪玉菌はウエルシュ菌やクロストリジウムと呼ばれる菌だ。
このバランスは病気以外にも、偏食や寝不足、飲酒、ストレスなどでも崩れる。また、加齢によっても悪玉菌が増えやすい環境になる。
食物繊維が多い食事では、便の排出は早くなって腸内の細菌数も少なくなる。そうなると腸は回転が良くなって、悪玉菌が増える時間的余裕がなくなる。
善玉菌を直接摂取したいところだが、それらを含む食材はない。ビフィズス菌を入れたヨーグルトでは、ビフィズス菌が胃酸や胆汁などで簡単に死滅してしまうため期待するほど接種できない。
むしろ、ビフィズス菌の餌(えさ)になるオリゴ糖を摂ったほうがよい。豆類には比較的オリゴ糖を含むものが多く、タマネギやアスパラガス、タケノコなどにもわずかだが含まれる。
風邪のときなどに処方される抗生物質は、病気の原因となる菌を殺す薬だが、元気な腸球菌などの善玉菌も殺してしまう。従って抗生物質とともに整腸剤が処方されることが多い。
整腸剤の成分はほとんどが乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌だ。