『第378話』 吐血と下血
吐血と聞くとかなり激しい症状のように思うが、胃や十二指腸といった消化管からの出血は珍しいことではない。
新鮮血で鮮赤色の吐血は食道静脈瘤(りゅう)からの出血であることが考えられるが、胃や十二指腸から大量に出血した場合も鮮赤色の吐血を生じる。
胃の中が空っぽのときにコーヒーの液体のような残渣(ざんさ)を吐くことがある。これは胃にたまった血液が、胃内の塩酸によって血液中のヘモグロビンが酸化され、ヘマチンという物質に変化してコーヒーのような暗褐色になるからだ。
吐血に伴って下血が認められることもあるが、十二指腸下部より出血したときは下血だけ現れることが多い。下血があると便は黒っぽい色を帯びてくる。
一般に消化管から5~10ミリリットルの出血があるだけで便の潜血反応は陽性となる。しかし、この程度では下血とはならず、70~100ミリリットルほどの出血があると便が黒色を帯びる。このくらいの出血になると、タール便と呼ばれる海苔(のり)の佃煮のようなべたべたした黒い便になることもある。
便の中に赤色の血液が混じっていたり、表面に血液が付着しているものは血便といい、大腸下部や直腸部分に病変がある。
吐血、下血時の止血剤としては下垂体ホルモン剤のバソプレシンやトロンビン製剤、H2ブロッカーのファモチジン、セクレチン製剤などを使用する。
消化管内視鏡の発達のおかげで出血部位も特定できるようになり、内視鏡による止血方法が優先する場合もある。
吐血は単に病気のときにだけ起こるのではない。飲酒後、激しいおう吐を繰り返しているうちに新鮮血を吐くことがある。これはマロリー・ワイス症候群と呼ばれ、胃食道の移行部位に亀裂が入って吐血するものだ。
忘年会に続く新年会、年の初めから血を見ないようにしたいものだ。