『第379話』 蛍光エックス線法による元素分析
透明な電球であれば、かつて発明王エジソンが日本の竹を炭素化して発光させたフィラメントを確認することができる。しかし、透明な家庭用蛍光灯はない。蛍光灯は両極から電子を飛ばし、管に塗られている蛍光物質を発光させて光を得ているからだ。
電子から得られるエネルギーはそれほど大きくない。このため、電子線を通常の物質に当てても蛍光はほとんど得られない。しかし、エネルギーの大きいガンマ線やエックス線を当てると、その物質から原子特有の性質を持つ特性エックス線と呼ばれる蛍光エックス線が発生する。これを測定することによって、元素の種類と量を知ることができる。
さらに、精度を上げて、ごくごく微量に含まれている元素を知りたい場合には、さらに大きなエネルギーを必要とする。高エネルギーの電子線が円形軌道を通るように磁場をかけて曲げると、シンクロトロン軌道放射といわれる強力なエックス線を得ることができるので、これを利用する方法がある。
また、蛍光エックス線分析法の利点は試料にほとんど手を加えず、非破壊的に調べることができることだ。
一方、純度が高い試薬として販売されている物質であっても、その物質のみ100%のものはない。試薬に含まれる不純物はその製法によって特有のパターンを示す。
ヒ素は銅、亜鉛、スズなどの硫化鉱に伴って産出する。これらを製錬するとき、ヒ素は金属蒸気となるのでこれを集塵(しゅうじん)機で集めて、さらに精製していく。しかし、ガリウム、ゲルマニウム、セレンといったものが不純物として微量ながら残る。日本は、主にフランス、韓国、中国から輸入していて、製法の細かな違いによって生じる不純物の量から原産国を特定することも可能だ。
蛍光エックス線分析法はすべての元素を測定できるわけではないが、ヒ素などの重金属を測定する有力な手段となる。毒物事件に関連してこうした分析器が整備されることは悲しいことです。