『第380話』 喘息に使用する薬

喘息(ぜんそく)発作を起こして亡くなる患者は年間6,000人にも達している。この数字は子宮がんや乳がんで亡くなる人数を上回っていて、喘息が命にかかわる怖い病気であることを示唆している。

喘息発作は空気の通り道である気道の筋肉が収縮したり、気道の粘膜がむくんで狭くなり、気道の通りが悪くなって呼吸困難になることだ。

健常な人でも冷たいものを食べたり、冷気を吸い込んだりすると気道が刺激されて咳(せき)込んだりするが、喘息の人の気道は健康な人なら反応しないようなわずかな刺激に対しても反応するほど感受性が高まっている。排ガスや喫煙、インフルエンザなどのウイルス感染などによっても気道が刺激されて、発作の原因となる。

しかしながら、気道収縮を起こす原因の大半は、ダニやハウスダスト、花粉、食べ物といったその人に特有のアレルゲン(アレルギーを起こす物質)によって引き起こされるアレルギー反応によるものだ。

刺激を受けた気道の粘膜には、白血球の一種である好酸球(こうさんきゅう)が集まってくる。好酸球は組織を破壊する強い作用を持っていて、気道の粘膜を傷つけ、脱落させ、その部分に炎症を起こす。それがさらに気道を敏感にさせて、刺激と破壊を繰り返す。このため喘息患者の気道は慢性の炎症が起こった状態にある。従ってこの炎症を抑えると発作の回数は減少していく。

気道の炎症を抑えるには吸入用のステロイド剤を使う。ステロイドといっても吸入用は気道への局所的な抗炎症作用に優れ、決められた量を守っていれば、全身に対しての深刻な副作用は起こらない。これを予防薬とし、たとえ発作が起こらなくても毎日指示された量をきちんと吸入することが発作予防のカギとなる。

同じ吸入剤でもβ刺激薬は起こってしまった発作を止めるためのものだ。気管支平滑筋の収縮を緩め、気管支を広げるのですぐに呼吸は楽になる。そのため発作が起きたときだけこの吸入薬のみを使えばよいと考えがちだ。しかし、β刺激薬だけでは気管支喘息は治らない。炎症が悪化し、やがてβ刺激薬では治まらない発作を起こす可能牲もあり、発作を起こさないためにもステロイド剤の使用が必須(ひっす)だ。

また、一部の降圧剤や解熱鎮痛剤など、特定の薬剤が発作を誘発することもあるので注意が必要だ。