『第385話』 「あくび」と「しゃっくり」

人との会話中や映画、演劇中に出るあくびは眠いか、退屈していることを表しているようで大変申し訳なく思うときがある。とはいうものの、あくびは脳の酸素不足に由来する反射的深呼吸なので致し方ないことだ。

あくびをすると横隔膜が押し下げられて肺が膨らみ、一気に空気が入ってくる。これにより不足した酸素を補うというわけだ。

横隔膜というのは筋肉でできていて、膜状に広がって胸腔と腹腔を隔てているものだ。

手を広げ、大きくあくびをすることは気持ちが良く、首や肩の筋肉も適当に緩むので、緊張感が解け、心地よい眠りを誘う。

また生あくびという言葉がある。こちらは何度かみ殺しても出てくる中途半端なあくびで、これは極度の緊張状態や恐怖、欲求不満が高まっているときに起こる。戦時下における兵士たちにはよくこのあくびが生じるという。同様に犬やネコのほか野生動物などもあくびをするが、猛獣同士の格闘になる前もこのあくびが観察される。

横隔膜が何らかの原因でけいれんすると、しゃっくりが起こる。しゃっくりは横隔膜が急に収縮するために短く、鋭い吸気運動が起こっている状態だ。

食べ過ぎで膨れた胃が、横隔膜を下から刺激してしゃっくりが起こることもあるし、暖かい室内から急に寒い戸外に出たときに起こることもある。横隔膜の運動を支配する横隔神経が刺激されて起こるなど原因はさまざまであるが、知らぬ間に止まっていることが多い。

しかし、しゃっくりが止まらないとなるとこれは日常の生活に支障が出てくる。現在、しゃっくりに対処する薬は確立されていない。自律神経遮断剤などを投与することもあるが、それで止まることもあれば、止まらないこともある。

しゃっくりをしている人を驚かすとか、鼻をつまんで水を飲むなど医学的根拠がないにしろ、しゃっくりを止める方法が編み出されてきた背景にはしゃっくりで苦しんだ人が意外に多かったものと思われる。