『第389話』 体温計と体温

体温計の目盛りは42度までしか刻まれていない。この42度というのは、細胞のタンパク質がゆで卵のように変化してしまう温度だ。

血液や筋肉、骨をはじめとして、タンパク質は人間の体の中で重要な役割を持っている。いったん固まってしまったタンパク質は、もとには戻れない。すなわち42度というのは人間が生きられるぎりぎりの体温ということだ。

熱いものを食べたり、激しい運動をして体温が上昇しても、汗をかくことによって体は冷やされ、ふだんは37度前後に落ち着いている。

一般に直腸温度が39度を超えるようになると、意識障害が起こり始める。直腸温度は腋窩(えきか)温に比べて、0.4~0.8度ほど高い。腋窩で計る場合は腋窩動脈の所に体温計の先端を当てて固定し、約10分を要する。直腸での測定では5分ほどだ。

腋窩や口で測ると気温など外界の影響を受けやすいため、直腸温度の方がより体温に近い値といえる。

最近、病院でも普及している電子体温計は壊れにくく、短時間で測定できることが利点だ。電子体温計には実測式と平衡温予測式がある。予測式のものでは、計り始めの90秒間の体温上界カーブから10分後の値(平衡温)を予測して表示するもので、水銀体温計よりも高めの温度になったり、低めになったりする。また計る度に、計測値が異なるというのも欠点だ。

最新式のものとしては、耳の中の温度を測定する赤外線耳式体温計がある。これは約1秒ほどで、鼓膜温と呼ばれる内頚動脈の血液温度を計るものだ。

高熱時に処方される解熱鎮痛剤はあくまでも対症療法で、いったん熱が下がっても、もともとの疾患が治らないと再び体温の上昇が起こる。

解熱剤の効果は数時間しかないが、それでも解熱剤が効いて、気分が少し良くなったときに消耗した水分や栄養を補給することは治癒を早めるうえでもとても大事だ。

小児の高熱では、まずアセトアミノフェンやイブプロフェンが解熱剤として選択され、ジクロフェナクナトリウムやインドメタシン、メフェナム散などは低体温をきたしやすいのであまり適していない。

また、4カ月未満の乳児の発熱では、尿路感染や敗血症、化膿性髄膜炎、中耳炎など重篤な細菌感染症の場合が多いので、原則として解熱剤は使用せず、熱型を観察する必要がある。