『第395話』 春こそ肝臓を大切に

中国には古来から五行という考え方がある。五行とは自然の基礎となる木、火、土、金、水のことだ。この五行をもとに、あらゆるものを五つに分けるという考え方は「陰陽五行説」となって医学にも応用されている。

例えば、季節では「春」が木に属する。そして方角では「東」、気候では「風」、臓器では「肝」、五官では「目」と言うように木に属するものが決められている。

これらは木そのものに関係があるというよりも、木の持つ性質やイメージに合致しているということになる。

陰陽五行説を唱えた朱承偉は、「木は正直で性質は柔和、気の枝のように伸びやかに広がるイメージ。曲がったことも真っすぐなことも併せ持ち、清濁合わせ飲むような大らかさがある」と伝えている。

人間の中にも木に属するような人がいるかもしれない。さて、問題は「春」と「肝」が同じグループにあることだ。東洋医学では「肝」を単に肝臓という臓器としてだけとらえてはいけない。「肝気」と呼ばれる気、血液、津液というものが体中に滞ることなく十分に流れることで、バランスのとれた心と体が維持できると考えている。

春にはあらゆる命が芽吹いて伸びていくように、「肝気」もこの季節、その流れがおう盛になる。この流れがおう盛になればなるほど、どこかそれについてゆけずに滞る場所も出てくる。

五月病や不眠症、不安定な気持ちになる人や何かのどに引っ掛かっているような気がして、空咳が止まらない人などが春には増えてくる。これらの症状はこの肝気のうっ帯によると考えられている。

「肝」には感情を調整する働きがあり、また目やツメ、皮膚などとも関係がある。肝臓そのものが疲れていると、怒りっぽくなったりいらいらしたりする。目の疲れや充血も肝臓の働きが鈍いと起こりやすいと考えられている。

肝気の流れのうっ帯をとるものとして生薬では柴胡(さいこ)や香附属子(こうぶし)、青皮(せいひ)川楝子(せんれんし)などが使われる。肝の血液を補うものとして、当帰(とうき)、白芍(びゃくやく)、孰地黄(じゅくじおう)などがある。

春には生活環境が変わる人が多く、緊張やストレスにさらされやすい。まずは規則正しい生活を心掛け、肝臓をお大事に。