『第396話』 注目されるEBM手法

 

民間薬と漢方薬は明らかに違う。民間薬は古来からの言い伝えで生き残ってきた。従って、あいまいさが常につきまとう。ある程度の効果は分かるが、分量、使用方法、回数といったことに一定の決まりや法則があるわけではなく、地域ごとに異なっている。民間薬は言い伝えと経験に頼り、理論的裏付けに乏しい。一方、漢方薬は長年の経験とその蓄積によって、漢方医学的診断法と理論を持っている。

現代医療ではこうした経験や理論以上の確実性と再現性、さらに経済性が求められている。

欧米で研究が進んでいるEBM(エビデンス・ベースド・メディスン)という手法が日本でも「医療の質の向上」と「患者主体の医療」を目指す試みとして注目され始めている。

過去からこうした取り組みが行われていなかったわけではない。疫学における疾病の予防法の研究や医薬品の開発段階におけるデータの収集と評価といったごく限られた領域で利用されてきた。

人生の中で得た経験を後世に伝承していくのは難しい。先人たちと同じ過ちを犯さなければ教訓を得られないことはよくあることだ。旧来の医療においてはこのことが重要だった。師と同じ体験やそばにいて実感することを重ね、より確実な診断指針、治療指針を得ていった。しかし、これは個人のものであって体系化されたものではない。医療の場でも師匠が弟子に伝授するような領域が多く存在する。

こうした領域は今後も残っていく部分もあるが、現代のコンピューター社会は今まで積み重ねられてきた経験を数値化し、評価して、これを体系化する手法を編み出した。利用可能な科学的根拠が蓄積され、活用が可能な状態をつくりつつあり、発展し続けている。

EBMを日本語に訳せば「科学的根拠に基づく医療」ということになる。欧米では盛んに研究が進み、保険償還の可否の判断材料、医療政策の立案に利用されている。

EBMの導入によって得られる成果の一例として、高血圧・糖尿病・喘息(ぜんそく)・心疾患などの「診療ガイドライン」の作成がある。すでに欧米では数千のガイドラインが作成されている。

科学的根拠が示されることによって、医療の透明性が高まり、患者が病気を理解し、治療法の選択や十分な説明を今以上に受けられるようになる。どの地域においても最適・最新の医療が受けられ、医療費の公平性も確保できる。

しかし、EBMがどのように進められても、最終的には個人に適応させることになる。患者の価値観、生活環境などに十分配慮しなければ医療の質は向上しない。そこには患者と医療提供者との信頼関係を構築していくことが必要だ。