『第408話』 結核患者増加に警鐘
平成11年7月26日、保健医療等関係団体17、行政関係11団体による「結核対策連絡協議会」が開催され、厚生大臣は「結核緊急事態宣言」を行った。
第二次大戦以前に生まれた人であれば、結核は死に至る恐ろしい国民病だという印象を持っている。しかし、戦後の日本は豊かさに恵まれ、結核患者の激減によって、結核はツベルクリン反応検査という陰性時に打たれる痛いイメージに変化してしまった。
人は、病原微生物が体内に侵入しても感染まで至らない防御機構を持っている。それは、好中球やマクロファージといった食細胞が病原微生物を食べ、活性酸素で殺菌してしまうという仕組みだ。しかし、結核菌は通常の病原微生物とは違い、人の感染防御機構を突破することができる。結核菌は食細胞の中に取り込まれた後でも増殖し、食細胞の拡散によって体内各部へ運ばれる細胞寄生菌の一種であるからだ。そのため、結核は肺だけではなく、どこの臓器でも病巣をつくる可能性がある。
結核菌をたたくためにはマクロファージから結核菌に感染している情報をヘルパーTリンパ球が受け取り、これが増殖して全身をめぐり、1~2カ月後に成立する細胞性免疫を獲得するまで待たなければならない。このせめぎ合いは微妙で、発病はしないものの結核菌を体内に持ち続けることもある。これが、結核療養が長くなる理由だ。
エイズ(後天性免疫不全症候群)ウイルスはヘルパーTリンパ球を破壊するため、発症患者では結核菌の増殖を抑えられなくなってしまう。
すでにWHO(世界保健機関)は、平成5年に結核の非常事態宣言を発表している。日本はほかの先進国と比べ、年間り患者数が例外的に高く、平成9年で約42,000人の新規結核患者が発生し、約2,700人が結核で亡くなっている状況だ。
近年、多剤耐性結核の問題、多発する学校、医療機関、老人関係施設などにおける結核集団感染、高齢者における結核患者の増加、在日外国人における結核患者の問題など、緊急に対応を図らなければならない課題が重積している。
新規発生結核患者数が38年ぶり、り患率が43年ぶりに増加、多剤耐性結核がまん延するなど、日本は結核が再興感染症として猛威をふるい続けるか否かの分岐点に立った。