『第410話』 生薬とティーバッグ
紅茶などを簡単に飲めるティーバッグは、今から100年ほど前、ニューヨークで考案されたといわれている。
当時の紅茶商人は紅茶のサンプルを絹の袋に入れ、その香りや品質を買い手に確かめさせていた。客の1人がそれにお湯を注いで飲んだことがティーバッグが世に出るきっかけになったといわれている。
日本でも昔から細かく刻んだ生薬を絹や麻の袋に入れたものがあり、振り出し薬と呼ばれ、携帯用として重宝されていた。
登場したのは足利幕府以降の戦乱の時代。いよいよ戦が激しくなり、戦場ですぐさま兵士の刀傷を手当てする必要に迫られていた。ここで生薬を配合した絹の小袋に熱湯を注ぎ、振ったり、揺らしたりして薬効成分を抽出させるというわけだ。
今でも漢方薬の中にはこのようなティーバッグ式の薬が販売されている。熱湯を注いでもいいし、煎(せん)じてもよい。
生薬はどちらかといえば、独特の風味と味があり、オブラートに包んで一気に飲みたくなるものもある。
しかし、お湯の蒸気に溶け込んだ成分を鼻から吸収したり、煎じることにより、単一の成分だけでなく、微量成分が複雑に組み合わされて薬効を発揮するという特性もある。
オブラートもそれ自身の役割は大きい。飲みにくい味の薬やにおいの強いものは包んだ方が飲みやすくなる。オブラートも、昔の丸型だけではなく、もっと飲みやすさを追求した形の物が出てきているが、材料に大きな違いはなく、今でもヒット商品である。
実はこのオブラート、“アラビア太郎”のあだなで知られる大森町出身の山下太郎(1889~1967年)という人が考案し、大正3年(1914年)に特許を取ったものだ。
ただし、薬なら何でもかんでもオブラートに包めるというわけにはいかない。例えば、民間薬としてもおなじみのセンブリはかなり苦味があるが、苦いと感じることが胃の神経を刺激して胃の蠕動(ぜんどう)運動を起こす。ほかにもこのような作用のある生薬を含む胃腸薬はそのまま飲むようにしたい。
今では、多くの薬がカプセルに充填(じゅうてん)されるようになり、薬を飲む際の不快感は少なくなってきた。