『第412話』 ピルの開発について(下)

ピルは半世紀にわたる開発、調査、研究、評価の歴史の中で、合剤型高用量ピル・前半は卵胞ホルモンのみ、後半を卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤とする順次型ピル・低用量の黄体ホルモンのみの製剤で休薬期間がないミニピル、そして合剤型低用量ピルと進み、黄体ホルモンと卵胞ホルモンの量を変化させる段階型低用量ピルと進んできた。

その結果、35歳以上で1日15本以上のたばこを吸う人や過去にピルを使用して過敏症を経験した人、妊娠中や授乳中の人、特定の疾患があってピルを服用してはいけない人などが明らかになってきた。また、40歳以上の人、乳房にしこりのある人、肥満の人、血栓症の家族歴がある人など、使用に当たって慎重を要する人も分かっている。

現在では、こうしたピル服用に適さない人を除き、必要な検査を受け、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)を経て、諸注意を守って服用すれば重大な副作用が回避できる状況になっている。従って、ピルを服用するためには受診することが必要になる。なお、健康保険は適用されない。

ピルを服用できなくなる理由の一つに「むかつき」がある。この原因は合成卵胞ホルモンによる嘔吐(おうと)中枢刺激作用によるもので、かつての高用量ピルに比べ、かなり改善された。しかし、原因はこれだけではなく服用後数時間後に現れる「むかつき」は合成黄体ホルモンによる低血糖傾向によるものと考えられている。これらのむかつきは3周期間の服用で治まってくるので、最初の2~3カ月間は制吐(せいと)剤を一緒に処方してもらう方法や、夕食時もしくは就寝時に服用することで軽くすることができる。

ピルの研究開発の中で副効用という新しい言葉も生まれてきた。これは大変な労力と経費が掛かるが、年齢などの条件を整えた集団を対象に、あらかじめ服用群と未服用群とに分けて薬を服用した影響を追跡調査していくコホート研究から得られたものだ。その結果、服用群では、避妊薬なので子宮外妊娠が起こらないほか、鉄欠乏性貧血や月経障害の軽減、子宮内膜症や子宮内膜がん、卵巣がんの防止効果などがあることが分かった。米国で販売されているピルの説明書にはこれら副効用に関する事項が明記されている。

ピルには最低量のホルモンしか含まれていない。このためほかの薬との飲み合わせの影響が出やすい。例えば、制酸剤、ペニシリン系のテトラサイクリン系抗生物質、抗真菌剤、鎮痛剤、催眠鎮痛剤などを服用するときは医師や薬剤師に相談する。

ピルは健康な女性が飲む薬だ。それゆえに、検討すべきことはしっかり研究されてきたとも言える。そしてあらゆる情報が公開されている。相手や専門医と相談し、正しい知識を得て使用してもらいたい。