『第413話』 すい臓の名称由来と機能
五臓六附(ろっぷ)とは肝、心、脾(ひ)、肺、腎(じん)と胃、小腸、大腸、胆(たん)、膀胱(ぼうこう)、三焦をいう。これが中国の古典書「霊枢(れいすう)」に体内の構造として示されている。この中には膵(すい)という文字はない。膵という字は日本でつくられた国字だ。
解体新書の元本「ターヘル・アナトミア」に、膵臓は「パンクレアス」の名称で記載されている。その解説には人体の集合腺(せん)として最大のものとある。結局、杉田玄白はパンクレアスを日本語にすることができず、オランダ語のキリイル(腺)を使って、大キリイルとそのまま直訳している。
膵臓の字は宇田川玄真著「医範提綱(いはんていこう)」(1805年)に初めて採用された。実は腺も国字で「医範提綱」から使われている。分泌物が泉のようにわき出るという意味で付けたと推測される。
パンクレアスのパンは汎(はん=すべての意味)を、クレアスは肉質を意味するが、宇田川は苹(へい=集まるの意味)の字を当てて膵とした。
膵臓や脾臓が身体のどの部分にあるかを正確に答えられる人は少ない。膵臓は胃の裏側下部にある15センチ程度の細長い臓器だ。先端は十二指腸につながり、もう一方の先端には脾臓がある。
脾臓は外部からの衝撃に弱く、血液を蓄えているために交通事故などによって破裂し、内臓出血部位になりやすい。胎児のときには血液を製造する重要な役割を担っているが、生後はその主な機能を骨髄などに引き渡すため、切除しても命に別条はない。
膵臓は腺の集まりの意味のごとく生命維持にかかわる内分泌と外分泌の機能を担っている。
内分泌系は内分泌細胞が集まったランゲルハンス島から血液中のブドウ糖濃度(血糖値)の調整を担うインスリンやグリカゴンを分泌する。
外分泌系は消化を担う酵素を分泌している。タンパク質分解酵素の元になるトリプシノーゲン、デンプン分解酵素アミラーゼ、脂肪分解酵素リパーゼなどだ。膵液は重炭酸塩を多く含むアルカリ液で、胃酸を中和して十二指腸内で膵酵素が働きやすい環境をつくり出す。
急性膵炎はこの外分泌系が膵臓を消化してしまうことから起こる。主な原因は脂肪分の多い食事とアルコールの飲み過ぎ、それと胆石だ。
急性膵炎は急激な激痛を伴って症状が現れる生活習慣病といえる。