『第420話』 「ドパミンの働き」

自分の体を動かすとき、脳から筋肉へ「この筋肉をこんなふうに動かしなさい」という指令が出る。その指令の声となるのが、中脳の「黒質」という部分で作られるドパミンだ。

ドパミンは簡単にいうと神経を興奮させる神経伝達物質で、その受け皿となる受容体に結合することでさまざまな情報を伝えている。

ジェットコースターなどに乗っていると怖いながらもそのスリルやスピードに一種の快感が生まれる。こうした作用もドパミンがもたらしている。

何らかの原因でドパミンが減ると、運動の指令がうまく伝わらず、手足が震えたり、歩行障害などを特徴とするパーキンソン病になる。

逆にドパミンが増えてくると、過剰に神経を興奮させ幻覚や妄想などをもたらす。そのため精神分裂病はドパミンの過剰な働きが原因になっていると考えられる。

従ってドパミンが受容体に結合しないようにする薬剤は精神分裂病の治療薬となる。薬がドパミンの働きを抑えようとするので、その作用が強すぎるとパーキンソン病と同じ症状が現れてしまう。

この場合、パーキンソン病そのものとは区別して、それと似た症状が出るものをパーキンソン症候群と呼んでいる。

また、ドパミンは胃や腸など消化管の運動を低下させる方向に働く。そのためおなかが張る、もたれる、食欲不振、悪心嘔吐(おうと)などの症状があるときはドパミンの働きを抑える薬が処方される。

このようにパーキンソン症候群は精神分裂病の薬に限らず、一般的によく処方される胃腸薬でも生じることがある。また、漢方薬や一部の健康食品(高タンパク食品)などでも生じると報告がある。

例えば、消化管の働きを活発にするメトクロミドや胃、十二指腸潰瘍(かいよう)の治癒を促進させるスルピリド、吐き気止めのドンペリドンなどはパーキンソン症候群が起きやすくなる薬剤だ。

両手足に震えが出たり、首にこわばりなどを感じて受診するときは、このような胃腸薬を飲んでいないか確認する必要がある。