『第424話』 エキノコックス症
太平洋に浮かぶガラパゴス諸島は独自の生物種が進化してきた所として知られている。島独自の進化は大陸などからの新たな生物種が侵入してこなかったからだ。
日本にも同じように動物相の分布境界線がある。一つは鹿児島県の屋久島・種子島と奄美大島の間を渡瀬線と呼んで区切る。もう一つは津軽海峡を生物境界線とするブラキストン線だ。
先月、県内でエキノコックス症の患者が見つかった。県内での発症は4例目となる。隣県の青森県では今までに21例が確認されている。このエキノコックス症が本州で感染範囲を拡大するのではないかと懸念する声が聞かれる。
今年8月に青森県で食用ブタに感染していたことが明らかにされ、本州に上陸している可能性が極めて高くなっていた。実際、青函トンネルによって本州と北海道は直接結ばれ、人や物流の動きはこうした生物境界線をいとも簡単に乗り越えてしまう環境にある。
日本では、1936年に北海道礼文島で最初の患者が発見された。
なぜ、礼文島が最初だったのか-。その理由は、人為的行為によるものであったことが、遺伝子分析の結果で明らかになっている。エキノコックス症の発症が好発しているアラスカのセントローレンス島から人為的にキタキツネの餌(えさ)として感染野ネズミなどが島々を渡り、1925年~1926年に感染キタキツネを礼文島に持ち込んだと考えられている。これは当時、狩猟を仕事とした人たちが行ったとされている。
1965年までは礼文島に限局されていたが、翌年には北海道根室から患者が見つかった。1983年以降は北海道全土に分布していることが分かっている。
エキノコックス症はキツネや犬などから排せつされた虫卵に汚染された飲料水や食物などを経口的に摂取したことによって感染する。主に肝臓に寄生するが、肺、脳、骨、その他の臓器にも寄生する。肝臓の肥大、腹痛、黄疸(おうだん)、貧血、腹水貯留などの初期症状が現れるまで、成人で10年以上かかる。
治療は病巣の臓器を摘出する手術が主となる。べンズイミダゾール系の駆虫薬による治療は、大量・長期投与が必要で、著しい効果は期待できない。こうしたこともあって、感染症新法では、行政機関に発症を報告しなければならない四類感染症に指定されている。
キタキツネいじめと批判されかねないが、札幌市が実施した1998年度のキタキツネ調査では、53%とかなり高いエキノコックス感染率を示している。調査結果の数値はキタキツネとの接触は控えるべきであると訴えている。