『第427話』 「ビタミンCと同じです」
風邪のシーズンになると、「アスコルビン酸とビタミンCはどう違うのですか?」という質問がときどきある。答えば「同じものです」。
ビタミンは英語発音ではヴァイタミンだ。ヴァイタは生命という意味で、体力や元気がある様をヴァイタリティがあるなどといったりする。
この「生命の化合物」とでもいうべきビタミンは、動物が成長していくためには絶対に欠くことができない微量物質で、しかも外界から摂取しなくてはならない有機物のことだ。
発見当時は脂溶性のAと水溶性のBの2種類だった。その後、発見された順序にCやDと付けていたが、単一の物質ではなく複合体だったり、既存の化合物と同一であったりして混乱を招くようになったため、現在ではアルファベットではなく、一般名表示やその化学構造から命名された名前を使うようになってきた。
アスコルビン酸という言い方はビタミンCの一般名だ。アスコルビン酸とは「壊血病にならない酸」という意味を持つ。
アスコルビン酸には化学式の構造上、L型とD型がある。壊血病を予防するのはL型の方であり、すなわちこれがビタミンCといわれるものだ。
壊血病は、大航海時代に長期にわたって新鮮な野菜や果物を補給できなかったために多くの船乗りたちが命を落とす原因となった病気だ。
主なアスコルビン酸の働きは生体内の酸化還元作用だ。
例えば皮膚や粘膜、血管壁などの結合組織をつくっているのは繊維状タンパク質のコラーゲンという物質だが、このコラーゲン同士がぴったりと密着しているのは、アスコルビン酸がコラーゲンの前駆物質プロトコラーゲンの水素基を水酸基に変える作用をしているからだ。
大きなやけどの後に生じるケロイドはこのコラーゲンが主な成分でかなり強じんな組織である。
アスコルビン酸が不足すると、あちこちに孔の空いたコラーゲンができ、それを材料に粘膜や血管がつくられていく。やがて孔の空いたところからひび割れが起こり、歯ぐきの出血や鼻血が出るなど各組織から血がにじみ出るようになる。これが壊血病の始まりだ。
冬は乾燥して皮膚や粘膜が弱くなりやすい。普段にも増して柑橘(かんきつ)類や野菜の摂取を心掛けたいものだ。