『第428話』 21世紀の医療を検証

 

「歴史から学ぶことができない者は、再びその間違いを犯すことになる」という諺(ことわざ)がある。20世紀最後の1年を迎えるに当たって、医療の分野でも医療技術、生命倫理、医療費用の観点から過去に学んだことを振り返り、検証する必要があるようだ。

医療技術の発達はほかの工業技術と同様に、20世紀に入って著しく高度化した。決して、単独に高度化したのではなく、総合的な技術力の向上が背景にあった。

20世紀までの治療法は外部から疾病を治すというやり方である。病態や疾病を起こしている原因を究明し、機能回復法や薬物の研究が行われてきた。しかし、こうした研究に限界を感じている専門家も多い。特にがんやウイルス性疾患、老化、痴呆(ちほう)といった問題の解決は21世紀に持ち越されていく。

ワクチンなどに見られるように、人にもともと備わっていた機能を活性化したり、体内で薬を産出させる研究が21世紀では進歩する。いわゆるヒトゲノム解析による遺伝子治療などだ。

医療の大前提として、真実を説いてこなかったことがある。しかし、これからは「病気が治れば死なないのか?」という問いにもしっかりと答えていかなければならない。尊厳死やQOL(クオリティー・オブ・ライフ)、生と死についての議論を深めていく必要がある。

臓器移植も人工臓器に置き変わるであろう。それも機械的なものではなく、自己細胞を使った人工臓器かもしれない。すでに特定機能を持つ人細胞へ分化させる技術が開発されつつある。

インターネットによって情報はいとも簡単に国境を越えた。人々はさまざまな医療情報を自由に入手し、根拠を持って質問できる環境も整えられていく。医療情報は専門家のものだけではなくなった。

それに伴って自己決定権の尊重や自己責任が問われることになる。冷静かつ客観的に判断する能力が求められる。

過ちがあれば反省し、学んでいかなければならないが、「人は過ちを二度と犯さないようにとは反省しない。二度と見つからないようにと反省する」と仏教学者が述べている。さて、あなたは?