『第431話』 耳式体温計の取り扱い方法

昔のダルマストーブは暖かかったと懐かしむ声を聞く。薪や石炭、学校ではコークスが鋳物製のストーブを赤くしていた。しかし、暖をとるのであれば現代の暖房装置の方が数段優れていることはいうまでもない。

あのダルマストーブの暖かさは輻(ふく)射熱によるものだ。その輻射熱を伝えているのは赤外線だ。赤外線は服を通過し、皮膚の中まで侵入して身体を暖める。

逆に赤外線量を計ることができれば、赤外線を発生させているダルマストーブの温度が分かる。

同様の方法を利用した温度測定器が耳式体温計だ。すべての物体は赤外線を放射している。赤外線の量はその物体の温度が高いほど多くなり、この量を赤外線センサーで計って温度に換算することができる。それも数秒で。

93年以来、現在まで10社から20種程度が発売され、価格も6,000~65,000円とかなり種類も増えてきた。

耳式体温計は、正確にいうと鼓膜の温度とその周辺から放射されている赤外線量を計っている。鼓膜温は、身体の体温調節をつかさどる視床下部の温度を反映している。人は体内深部の温度を正確に把握するため、腋下(えきか=わきの下)温だけでなく、口の中や肛門から直腸温などを計ってきた。保温というと腋の下で計った値と思われているが、実際知りたいのは体内深部の温度で、特に脳は温度の影響を受けやすく、その温度を正確に把握できれば、診断するための重要な情報となる。

国民生活センターでは、通常の水銀体温計と比べて耳式体温計が高い値を示すことがあるので次の点を注意するよう呼び掛けている。

耳と腋の下では測定値が異なることがあるので、耳式体温計で定期的に検温し、平常時の検温値を知っておくこと。センサー部のカバーをしないと異常値が出る(カバーをつけるタイプのみ)ので必ず新しいカバーを付け、衛生的に取り扱う。検温値は左右で異なるので、同じ耳の方で計る。耳垢(みみあか)があると異常値が出るので耳の掃除をする。このほか、周囲の温度などに対する注意や測定方法を熟知する必要がある。

小児の平均体温は36.5~37.2度で、成人に比べて高く、37.0~37.5度の間に健康小児と病児が混在している。

耳式体温計は新しいタイプの体温計だ。説明書をよく読み、知識を深めて上手に使ってもらいたい。