『第615話』 【松・竹・梅】数多くの薬用効果

松竹梅はおめでたいシンボルの代表だ。日本人の生活に慣れ親しみ、結婚式のテーブル、旅館の部屋名、お弁当のランクなどだけではなく、外国の映画では日本を象徴するシーンに度々登場する。

筆頭に挙げられる松は、その幹から出てくる松脂(まつやに)の成分が胃炎や胃かいように効果があり、現在も医療用として使用されている。

松脂が自らの傷を覆って治す力があることは古来より知られているが、大腸菌や緑膿(りょくのう)菌、黄色ブドウ球菌などを抑える働きがあることが分かっている。2000年前の中国最古の薬物書「神農本草経」にも不老長生の薬として分類されているほどだ。

竹やササの葉には安息香酸、クロロフィル、ビタミンKが含まれ、これらが殺菌や腐敗防止作用を持つ。すしや牛肉、かまぼこ、団子などをササで包む伝統は、この効果を利用したものだ。ササはササダケの略で小型の竹の総称だ。

竹の葉を日干しにした竹葉は、竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)という漢方処方に配合され、解熱の目的で使われる。竹瀝(ちくれき)は、竹の節と節の間の稈(かん)を火にかざして両端から滴り落ちる液を集めたもので利尿効果がある。

真竹は120年に1度といわれるほど、竹はめったに花を咲かせない。まれに咲いて実を結ぶとほとんど枯死する。そのためか、麦の実に似た竹の実は強壮剤として珍重されている。

松や竹のすがすがしい青さに対し、梅はバラ科の落葉樹で白や紅色の五弁花が美しい。寒風がまだ残る春先に開花し、梅雨に入るころにはその実が熟すので、入梅という言葉が生まれた。

薬にするのは未熟な実を薫製にして乾燥させたもので、烏梅(うばい)という。これによく似たものが梅肉エキスで、青梅をすりおろしてその果汁をとろ火で煮詰め、あめ状にしたものだ。下痢や消化不良に使う。

梅に含まれるクエン酸、ピ一ルビン酸、コハク酸は胃や腸で病原菌を殺す作用を持っている。また、日の丸弁当にすれば、ご飯の腐敗を防ぐ保存料的な使い方ができる。血液の循環を活発にするだけではなく、その酸っぱみは食欲を増進させてくれる。梅干しや梅酒など梅の恩恵を受けられる身近な食品は多い。

そういえば、今年の梅雨はどこへ行ったのやら。日本人は季節感を大事にしているが、地球環境汚染がその感覚まで狂わせようとしていることも気に留めておきたい。