『第435話』 血糖値、体は教えてくれない

 

糖尿病という病気の入り口に差しかかったときに飲む薬がある。しかし、その薬の売り上げは今ひとつだという。患者が糖尿病になりつつあるという自覚がないのが理由の一つだ。

普通おなかが空いてくると何かを食べないではいられなくなる。このとき血液中のブドウ糖の量、すなわち血糖値は低くなっていて、このままでは危険だということを知らせている。これが空腹感や飢餓感となって現れるのだ。

もしも食事がとれない状況に陥ると、さまざまなホルモンが働き、肝臓や筋肉に蓄えてあったグリコーゲンをブドウ糖に変えて血液中に戻したり、体脂肪として蓄えてあった脂肪をブドウ糖に変えて血中に戻し、一定の血糖値を保とうとする。

ところが血糖値が高くなって一定値を超えても、体は特に何も知らせてはこない。

血糖値が上がってくると、それを下げるホルモンであるインスリンがすい臓から分泌され、血糖値を正常化する。そして余分なブドウ糖はグリコーゲンに変えて肝臓や筋肉に蓄え、まだ余っている分は脂肪に変え、体脂肪とする。

ところが糖尿病の人はこのインスリンの働きが鈍いか、または出てこない。食後に高くなった血糖値は下げられずに血管が砂糖漬けの状態になり、余ったブドウ糖は結局尿の中に捨てられる。

糖尿病はある程度進んだところで、ようやくのどが渇く、多尿、体重減少などの自覚症状が現れてくる。

生まれてきたときには目が見えていた人が、途中で視力を失う原因の第1位が糖尿病性網膜症によるものだ。高血糖にさらされた血管はもろく破れやすくなるため、眼や腎臓(じんぞう)などの微細小の血管が損傷を受けやすく、糖尿病性腎症になると人工透析を余儀なくされる。

すい臓のインスリンを出す細胞が壊れているためにインスリンが出ない糖尿病の場合、基本的には体外からインスリンを補充するしかないが、それ以外の糖尿病は食べ過ぎと運動不足が大きな原因になっている。

まずこの生活習慣を改善することが治療の根幹ではあるが、糖尿病とはいえないまでも少し高めの血糖値をそのままにしておくことは、やがて糖尿病の人と同じ合併症が出てくると予想される。

運動、食事療法とともに早めに薬物による血糖コントロールも重要と考えられている。