『第438話』 温泉飲用には注意を

貝原益軒の「養生訓」には温泉の利用方法が書いてある。これによると、「温泉を飲むのは有害である。毒がある」としている。

日本書紀には反対に、持統天皇のころ(今から1,300年前)、飲泉によって多くの病人を治療したという記録がある。しかし、それ以後、飲泉の利用は江戸時代まで記録がない。本格的飲泉は明治になって、硫黄を含むベルツ水で有名なベルツ博士の指導による。ヨーロッパでは温泉というと飲泉や吸入を意味するほどだ。

先ごろ、茨城県で温泉水を原料にした天然健康補助飲料にヒ素19.5ppm、鉛0.75ppmが含まれていて、これを飲用していた女性が頭痛、倦怠(けんたい)感を訴え、業者が食品衛生法違反で製品を回収する事件があった。

食品衛生法では、清涼飲料水にヒ素、鉛、カドミウムを含んではならないことになっている。

しかし、温泉水はもともとこうした重金属を含んでいるのが当たり前。なぜなら、温泉は熱水が地下にあるさまざまな火山性成分を溶かして、地上までやってくるものだからだ。また、その含有量も、地下水脈の変化で変動する。そんな恐ろしいものをと思われるかもしれないが、温泉は適応症を含めて経験則によるところが多い。

温泉水の飲用利用基準では、次の6成分が基準の適用対象だ。

1日総摂取量の上限値は大人でヒ素0.3ミリグラム、銅2ミリグラム、フッ素1.6ミリグラム、鉛0.2ミリグラム、水銀0.002ミリグラム、遊離炭酸1,000ミリグラムとなっている。従って、飲泉の上限値を超えないように、温泉分析表で温泉水に含まれる成分濃度から計算して、1日に飲泉できる温泉水量の上限値を算出する。

飲泉用の適否を判断するためには細菌検査や過マンガン酸カリウム消費量の試験も必要となり、年1回定期的な試験を実施し、飲用が可能なのかを確認しなければならない。しかし、単にコップが置いてあるだけで、検査や飲んではいけない人の禁忌症を明示していない温泉もあり、注意が必要だ。

飲泉可能な温泉で、行楽帰りの1杯であればよいが、何らかの目的を持って継続的に飲泉する場合には、温泉療法医の指導を必ず受けること。勝手な判断は禁物だ。