『第439話』 細菌の分類知識グラム染色
肉眼で観察できない世界があることを発見したのは江戸時代、1674年9月7日のことだ。オランダ人のレーベンフックは仕事の合間にレンズを磨き、顕微鏡を作った。顕微鏡といっても今のようなものではない。40~270倍で体のよい拡大鏡といったところ。その中に水中原生動物や細菌を見いだしている。
その後、微生物が腐敗などのさまざまな現象を引き起こしていることが証明されたのは、1856年、フランスのパスツールの行った実験による。宗教観念によって生命は神によって、自然に生まれてくるという自然発生説に異論を挟むことが大変な時代に、巧妙な実験によってこれを否定し、発酵学の基礎をつくった。
微生物の分類は、視覚的観察の歴史を背景に持っている。-球菌、-棹(かん)菌と名前がついているが、すべて形態的な分類から発生している。化膿(かのう)菌の一種であるブドウ球菌は、ブドウの房のように群がって増殖するのでこの名前がある。食中毒を引き起こす腸炎ビブリオのビブリオとは弧を描くような形を示し、梅毒スペロヘーターはスパイラル(らせん)の形状をしている。
もう一つの分類方法にグラム染色法がある。染色に使うピオクタニンブルーには別名が多くあって、塩化メチルロザリニン、ゲンチアナ紫、クリスタルバイオレットなどとも呼ばれる。もともと染色剤には微生物を殺す効果があり、ピオクタニンブルーの溶液は、昔、はしかの発疹(ほっしん)部位や口内炎などに塗った。このためぽつぽつと青い色素を顔に塗られた記憶のある方も多いはずだ。
細菌をピオクタニンブルーで染色して、ヨードを含むルゴール液で処理すると、水に不溶で、アルコールに可溶な結合物質が菌体内に残る。陰性菌の細胞壁には脂質が多く、アルコールで脱色すると、脂質が溶け、同時に細胞壁が壊れて脱色されてしまう。しかし、陽性菌には脂質が少なく、濃青色が残る。通常は、顕微鏡下で見やすくするためにサフランニンやフクシンで淡赤色に比較染色して、見やすくしている。ブドウ球菌は陽性菌、大腸菌は陰性菌の代表で、例外が多くあるが一般的に球菌は陽性、棹菌は陰性である。
グラム染色は細胞壁の組成の違いを示していて、これによっても抗菌剤の効き方が違ってくる。主治医から感染症に関する説明を受けることもあり、細菌についての基礎的な知識が必要になってきている。