『第442話』 脳卒中は時間との戦い

急激に病態が変化・悪化する疾病に脳卒中がある。卒には、にわかに、突然にという意味がある、中はあたるという意味だ。古代ギリシャの医聖ヒポクラテスは、脳の損傷部の反対側の身体にまひやけいれんが起こり、40~60代に多いことを指摘している。

中国最古の医書「黄帝内経(こうていだいけい)」に風に中(あ)たり、うち倒れ、半身不随となるとあり、外因的因子の「風」から来ると考え、古くから中風(ちゅうぶ)と言われるようになった。

18世紀、イタリアのモルガーニが病理学的解剖によって脳卒中の原因を特定している。

脳卒中は脳に出血が起こる脳出血、くも膜下出血と脳内の血管が詰まる脳梗塞(こうそく)に大別できる。従って、脳卒中は病名ではなく、脳血管障害からまひ等を起こす一連の症候群を示している。

脳梗塞は主に脳血栓と脳塞詮に分類する。脳血栓は脳の血管そのものが動脈硬化を起こして、血栓(血の塊)の形成で血流が途絶え、脳細胞が壊死(えし)した状態。高齢者で生活習慣病を持っている人に多く、発作は主に安静時や睡眠中に起こる。

脳塞栓は、患部以外のところで生成した血栓等が飛んできて、脳の血管をふさいでしまうことによって起こる。若年層でも起こり、主に日中の活動期に突発的に発生する。血栓は主に脳に近い心臓に由来し、心筋梗塞、弁膜症等の心疾患の既往症や合併症を持っているのが特徴だ。

脳塞栓は血栓の移動や詰まり方で病状が急変し、目詰まりしたところで出血性梗塞を起こして、血液が漏れでていくとさらに重症化する。脳幹で出血すれば呼吸が停止して、致命的だ。

治療は時間との戦いとなる。単に詰まった血栓を溶かせば良いということでもない。3時聞以内であれば血栓を溶解する目的で遺伝子組換え型組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)を投与する療法が米国で行われている。しかし、致死的な出血を起こすことがあり、日本では否定的で、医療保険の適応にもなっていないなど、研究しなければならない課題が多く残っている。