『第449話』 難しい「皮膚薬」の選択
薬の専門家である薬剤師といえども、皮膚のお薬をアドバイスするのはちょっと難しい。薬の選択を間違えると、治らないのはまだいいとしても悪化させることが多いからだ。
すり傷や切り傷に限らず、湿疹(しっしん)などでかきむしった皮膚には細かな傷がたくさんついている。傷ついた皮膚は防御能力が落ちているのでかえって薬にかぶれることがある。
軽い傷なら流水で洗っておけば自然に治る。心配なら消毒して清潔なガーゼを当てるくらいで良い。
クリームやローションタイプのお薬は皮膚に非常に浸透しやすい性質を持つが、これらを傷口につけると傷口からの分泌物がクリームと一緒に皮膚の奥まで浸透してしまい、細菌感染症を起こすことがある。
また、クリーム剤には油と水を混ぜるための乳化剤というものが入っている。これが内部に浸透して皮膚を刺激し、しみて痛いということが起こる。
クリームやローション剤はあくまでも皮膚の表面に傷がないとき、つまり皮膚の表面(表皮)が完全にあるときに使うものだ。
皮膚がはがれていたり、赤いブツブツがあるような時は表皮は壊されている。たとえ、かさぶたができていてもまだまだ表皮は不完全だ。このようなときは油性の軟膏(こう)を使うようにする。
唇が乾いて割れた時にワセリンを塗ることがある。ワセリンは薬というよりも、単に皮膚の上に油性の膜をつくるだけだ。しかしこれだけでも皮膚をさまざまな刺激から守ることができる。
ワセリンは油性軟膏をつくる際に薬を溶かし込む基剤となるもので、ベタベタするがこれが皮膚の保護効果をもたらす。
傷や湿疹などに適当な軟膏が分からない時は、ワセリンを塗って刺激を防ぎ、医師に見せるようにする。くれぐれも勝手な判断で民間薬や市販薬を塗ることは避けたい。
抗生物質入りの軟膏もいろいろ市販されてはいるが、やけどをした時の化膿(のう)防止で使うぐらいに考えた方がいい。化膿しているような時は医師にみせ、的確な抗生剤を選んでもらおう。
塗り薬でも抗生物質に対するアレルギー反応は起きることがある。一度起きると、同種類の抗生物質を飲んだり、注射した時にもアレルギーは起きる可能性があるので、アレルギーを起こしたことがある軟膏名は必ず記憶しておきたい。