『第457話』 毒素型食中毒は加熱予防できず
大阪の乳製品を原因とする食中毒発生によって、黄色ブドウ球菌と産生毒素のエントロトキシンの名前が全国に知れ渡った。しかし、黄色ブドウ球菌は、特殊な細菌ではなく、大腸菌群などとともにだれでもが持っている可能性がある、ありふれた細菌だ。細菌学の黎明(れいめい)期にローベルト・コッホが膿(のう)汁の中に発見し(1878年)、ルイ・パスツールが培養に成功した(1880年)と言われている。
黄色ブドウ球菌は皮膚表面や鼻腔(くう)内にいて、傷口ができたりすると容易に増殖し、傷口を化膿させる。化膿した細菌を白血球が食べて死ぬと、うみになる。また、抗生物質が効かなくなる薬剤耐性菌MRSAのSAはスタフィロコッカス・アウレウスという黄色ブドウ球菌の学名の頭文字だ。
黄色ブドウ球菌はどこからでも侵入する要素を持っている。過去は握り飯を原因とする例が多かった。このうちの多くは家庭で作られたおにぎりだ。店頭売りなどでは現在、機械化と自動化、手袋を使うなどの改善によって大幅に減少し、食中毒の原因順位は下位となっている。しかし、家庭で作ったおにぎりで相変わらず発生しているので注意が必要だ。
古い食材の利用や傷口から汚染した食材が黄色ブドウ球菌の増殖に適した環境に置かれると、どのように加熱調理して殺菌しても黄色ブドウ球菌による食中毒が起こる。これはエンテロトキシンが水溶性で耐熱性・耐消化酵素のために、100度で30分加熱しても、消化器官に入っても分解しないからだ。エンテロトキシンはタンパク質で抗原性によってA~Eに分けられ、ほとんどがエンテロトキシンAが原因で、200ナノグラム以下で食中毒が起きるという報告がある。菌数では食品1グラム中、10の6~8乗個で発生していることが多い。酸性環境下では毒素産生量が減るなど、環境によって毒素の生産量が影響を受ける。
エンテロトキシンは黄色ブドウ球菌特有の毒素ではない。ウエルシュ菌というガス壊疽(えそ)を起こす細菌も芽胞(細菌の耐久型)を形成するときに、菌体内に作ったエンテロトキシンを放出する。この菌も人に常在していて食中毒の原因となる。
エンテロトキシンで起こる食中毒では、吐き気やおう吐の症状が早い人で1時間以内、おおむね2~5時間程度で出てくる。早く対処すれば一両日で回復する。
夏場は食中毒の季節。▽毒素型の食中毒は加熱しても予防できない▽細菌を含むだ液や鼻汁が飛び散らないようにマスクをする▽食品には素手で触らない-といった注意が必要だ。