『第462話』 ビブリオ属細菌にご用心

「ビブリオ」というと、食中毒を起こす「腸炎ビブリオ」と「コレラ菌」が有名だ。病原性を持っているビブリオ属の細菌は約10種類が知られている。両者はともに非常に特徴的な性質を持っている。腸炎ビブリオは、海水を好む好塩性で、夏期には沿岸の海水や魚介類から検出され、腸炎ビブリオが付着した魚を生食することによって食中毒を起こす。サルモネラ菌属に続いて多く発生し、昨年度は9,396人が感染して1人の死者が出ている。

一方、コレラ菌の学名はビブリオ・コレラで、症状が重い「古典型」と軽い食中毒程度の症状で治まってしまう「エルトール型」がある。アルカリ性の環境を好み、胃酸で殺菌されてしまう。従って、胃酸が薄まるような暴飲暴食をした人や低胃酸症の人がかかりやすい。コレラは発熱することがなく、新陳代謝が低下して35度程度まで体温が下がる特徴を持っている。

最近、ビブリオ属で問題になっているのが、ビブリオ・バリニフィカスだ。好塩性で甲殻類や魚介類、動物性プランクトンに付着し、海水中にも浮遊する。バリニフイカスの名前は「創傷を負う」に由来する。

既に国内で100例ほどの感染例がある。昨年は、熊本県で3人が感染、佐賀県では4人が死亡している。感染例は海水温度の高い九州地方に多かったが、海水温の上昇に伴い感染地域の拡大が心配されていた。そうした中で、今年に入り干葉県で50代の男性が感染し、入院後2日で死亡した。潜伏期間は数時間から1日。免疫力が低下している人、肝硬変などの重い肝臓病のある人は細菌が血液中に入りやすく、全身に回ると発熱、悪寒、血圧の低下、蜂巣(ほうそう)炎などの皮膚病変を起こし、致死率が50~70%と非常に高くなる。また、鉄剤を服用している人は、血清鉄が細菌の病原性や増殖性を増やすことから同様にハイリスク者となる。

予防方法は、肝臓障害がある人は、魚介類を生食しない。岩場の傷で感染した報告もあることから、素足で海岸などを歩かないことなど、気をつける必要がある。

治療には第三世代セフェム系やテトラサイクリンなどの胆汁排せつ型薬剤が有効とされているが、病態が進行してしまうと効かないので、思い当たる節があれば、すぐに医療機関にかかることが必要だ。