『第465話』 降圧剤に体の震え抑止作用

大勢の前で発表するときに声が震える、だれかにじっと見られていると字を書くときに手が震える、飲み物を注いでもらおうとすると手が震えてコップを落としそうだ、などなど、普通の人でも通常とは異なる状況におかれるとさまざまな震えを来すことがある。

意識すればするほどひどくなり、緊張や疲労、興奮、空腹などで助長されることが多い。頭が震える人もいるし、全身が震えて立てないと言う人もいる。

このように自分の意志とは関係なく体の各部に現れるさまざまな運動現象は、自分の思い通りにはならないので不随意運動と呼ばれる。

寝入りばなに手や足がぴくっと動くことがあるが、これは生理的な不随意運動の一種で専門的には振戦と呼ぶ。

パーキンソン病や多発性硬化症、ウイルソン病、甲状腺(せん)機能亢(こう)進症病などによっても振戦は引き起こされるが、このような病的なものが背景になく、震え以外なんの症状もない場合は本態性振戦と呼ばれ、今のところ原因は分かっていない。

特に震えが手指の先に細かく起こる人は他の家族にも現れやすいという報告がある。

多くの人がアルコールを摂取すると症状が軽くなったり、消えてしまうと言う。このことからもまずは不安や緊張を和らげることが有効だ。

原因が不用なので特に本態性振戦の薬というのはなく、他の治療薬を使っての対症療法となることが多い。

ただし振戦の種類によっては効果が大きい場合とそうでない場合とがある。

まずリラックスさせる薬としてベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安剤や精神安定剤が使用される。

また血圧を下げたり、狭心症や不整脈を抑えるβ(べータ)ブロッカーと呼ばれる薬が本態性振戦の第一選択薬となることがある。

これは本来の作用の他に震えを抑える作用も有しているためだが、使用例が少ないので薬剤師が本態性振戦についての作用を説明しないのが普通だ。

「震えの症状がある」など患者さんからの情報が得られれば主に使う疾病以外の作用について、より的確な説明をすることができる。

気軽に話すことは、自分自身の情報を集める最も良い方法だ。このことは気軽に相談できる「かかりつけ薬局」をもってもらいたいという理由の一つでもある。