『第468話』 医薬品情報はなぜ必要?

「薬は怖いですか?」という問いに、ほとんどの人は「怖い」と答える。「なぜですか?」という問いには、「薬は毒だから副作用がある」という答えが返ってくる。

薬が多くの食品や健康食品と異なるのは、服用することによって必ず身体に何らかの影響を及ぼす物質であるという点だ。また逆に、身体に影響しないような物質であれば薬としての役目はない。

薬(物質)が身体に影響する様子を体系化した学問が薬理学だ。薬理学から薬を見ると、「薬とは病気の治療に役立つ薬理的効果がある物質」ということになる。

薬理学の出発点には主作用も副作用もない。単に物質がどのように吸収され、身体の各臓器に運ばれて、そこでどのようなメカニズムで身体的影響を与え、結果として身体をどのように変化させていくのかを明らかにしていくだけだ。

しかし、薬理学は正常な身体的機能を研究する生理学や生化学を踏まえ、物質を薬として利用するために、臨床医学へ橋渡しをしなければならない。従って、その最後には、薬という概念が持ち込まれる。その途端に「主作用と副作用」という分別が現れる。つまり自分自身の身体に都合の良い作用と悪い作用を分ける思考が起こってくるということだ。

身体に必ず影響を与える物質の代表は、少量を用いるだけで死亡する物質「毒」だ。そして多くの薬が確かに「毒」に成り得る。

薬学者がアマゾンの奥地などに入り、探し求めているのは「毒」だ。毒は薬に成り得る可能性を秘めている物質だからだ。換言すれば「毒だから薬になる」といえる。

毒はその急激な薬理作用によって、身体各部の機能を大きく変化させてしまう。しかし、これをうまくコントロールできれば、血圧や血糖値を下げ、高脂血症を治療し、心肺機能を正常化させることができる。

毒を薬として使う基礎データが集積され、知識となって薬が誕生している。従ってこの物質を使っていくためには知恵が必要になるわけだ。

その知恵を伝授しているのが医薬品情報といえる。

副作用のことを伝えるのは怖がらせるためではない。もしも発生した場合に、早い対応ができる準備をしておくためにお知らせしている。

薬局の窓口でさまざまなことを聞かれて、うるさいという苦情も聞く。しかし、適正に薬を使用するためには情報を伝えなければならないことをご理解いただきたい。