『第470話』 薬で風邪そのものは治らない
風邪で病院を訪れ、抗生物質が処方されると、これで風邪が治ると思う人も多いが、実はそうではない。なぜなら、風邪の大半はウイルス感染によるもので、抗生物質にはウイルスを殺す力はないからだ。抗生物質がやっつけるのは細菌だ。
風邪がこじれると気管支炎や肺炎など、細菌感染による二次感染を起こしていることが多く、その治療のために抗生物質が必要になるのだ。
風邪は体とウイルスが戦っている状態で、高熱が出るのはウイルスをやっつけるためだ。体温が上がるとウイルスは弱まり、高熱が引き金となってそのウイルスに対する抗体産生が一気に高まってくる。
その意味においては、むやみに解熱剤などを使用せず高熱のままウイルスと戦いたいところだ。熱が出ても38.5度ぐらいまでは宿主(人間の体)の方が有利と言われ、ゆっくり休める環境に体をおいていれば熱も3日程度で落ち着いてくる。
しかしながら、高熱で苦しい状態が続くときは最低限、解熱剤の力を借り、水分と栄養を十分に補給する必要がある。
せきや鼻水が出るのもウイルスを追い出すのが目的だ。どろっと粘っこい黄色や緑がかった汚い鼻や痰(たん)は、ウイルスや細菌と戦った白血球の死がいだ。せきをすると痰が出て楽になるのなら、そのせきを止めるべきではない。ただし、せき込んでとても安眠できないというときは、体力を落とさぬためにもせき止めのカが必要だ。
鼻水や鼻づまりの鼻風邪でも熱がなければ解熱鎮痛剤は必要がなく、鼻炎用の薬だけでよい。もはや熱があり、体がだるいなどの全身症状が出そろったら総合感冒薬に切り替える。
風邪薬は風邪そのものを治すことはできない。あくまでも苦しい症状を和らげ、自然の回復を助けるのが目的だ。市販薬を飲んでいても、3日以上熱が続くときやせきがいつまでも止まらないなど症状が回復しないときは診察を受けよう。
風邪をこじらせている場合もあるし、肺結核や特殊なウイルス感染症にかかっていることもある。また肺がん、エイズなども風邪の症状から発見されることがあるからだ。