『第471話』 自然治癒には食べること

ロシアの格言に「病めるものが食べたがるもの、それが薬である」というのがある。現代のような薬がない古代においては、薬と言えばそれは食事だった。

診察時の「食欲はありますか?」という質問は、実はとても大事なことを尋ねている。食べる力があれば、人間がもともと持っている自然治癒能力を発揮できるからだ。

食べ物は自然から取れるものであり、実に多くの成分を含んでいる。人間が誕生して以来、数え切れないほど繰り返される食事によって、やがて体に良い栄養素や体が欲している栄養素などを本能的に、しかも効率良く選択できる体をつくってきたといわれている。

このことが体のバランスが崩れたときや何かの症状が現れているときに「○○が食べたいなぁ」というサインになって必要な栄養素を取り込もうとする。塩辛いものを食べると水分を欲するし、疲れると甘いものが欲しくなり、体のバランスを立て直そうとする。

同様に動物たちも病気や体調がおかしいときは、ミネラルを含んだ土を食べたり、ふだんは口にしない薬草をかじったりする。ふだんは草など口にしない犬が、あるときコンフリーの葉に突進していくのを見たことがある。食用としてきたものの中には生薬やスパイス(香辛料)、ハーブ(香草)などもある。これらの使用法は多くの著作の中で見つけることができる。

絵本のピーターラビットの一節。命からがら逃げ帰ってきた興奮状態のピーターラビットに「母さんウサギはピーターをベッドに寝かせ、カモミールティーをつくり、ピーターに飲ませました」のくだりは、カモミールの鎮静作用を謳(うた)っている。他にもカモミールティーを飲ませながらおなかをさすったりする。これはカモミールに下痢止めや痛み止めの作用があったことを示している。

漢方薬の基本処方である桂枝湯は桂枝(シナモン)、甘草、生姜(ショウガ)、棗(ナツメ)、芍薬(シャクヤク)の5種類からなり風邪の症状に使われるが、シャクヤク以外は食用だ。

例えば、ナツメを日干ししたものを1人分当たり2個を湯で戻し、ショウガ薄切り2枚とコメ50グラム、水400ミリリットルで炊いたおかゆは食欲不振によく、体力をつける薬膳だ。

薬膳の本は各種出ているので、ぜひお試しを。