『第475話』 次々と開発が進む抗うつ剤
生活をしている間には、さまざまな挫折やストレスを経験する。何らかのきっかけでうつ病になる人もいる。
悩み事の電話相談を受けている知人がいるが、親身になって相談に乗っていた男子高校生が、突然自殺してしまった。知人はこのことをきっかけに言葉を失い、うつ病になった。
3年間の自宅での闘病の結果、現在は「ようこそ鬱(うつ)へ」と言えるまで回復し、薬も服用していない。知人は闘病の間に、その精神状態や気分を克明に記録していた。だれも信用できない、閉じこもった自己の世界。うつ病にかかった人にしか知りえない世界があった。
治療には抗うつ剤を使うが、その効果がどのようなメカニズムで働くのか、いまだによく分かっていない。しかし、ある程度の仮説を基に、さまざまな抗うつ剤が開発されている。
生体内には神経伝達物質のモノアミンがあり、神経のスイッチングの役割を担っている。この神経伝達物質がうまく機能しないとうつ状態になるのではないかと言われている。カテコールアミン(ノルエピネフリン、エピネフリン、ドーパミン)とインドールアミン(主にセロトニン)を合わせてモノアミンと呼ぶ。
1950年代にノルエピネフリンとセロトニンの神経節での濃度を上げて神経の伝達を助ける三環系抗うつ剤が開発された。副作用として口腔内の乾燥や心臓血管系に対する障害があり、これを改善した四環系抗うつ剤が開発されて、病態ごとに使い分けされている。
こうした抗うつ剤の服用は長期にわたるため、副作用の苦痛を伴うことがある。より副作用を軽減した選択性セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI=セレクティブ・セロトニン・リアップテイク・インヒビター)が開発された。しかしこれも、消化器系に副作用があり服用できない人もいる。さらに、セロトニンとノルエピネフリンの濃度を上げるセロトニン・ノルエピネフリン再取り組み阻害剤(SNRI)も開発過程にある。
薬を服用することも必要だが、うつ病の治療には家族の協力が必要だ。知人のうつ病克服には、奥様のうつ病に対する理解と献身的な協力があったことを付け加えておきたい。