『第480話』 「母子健康手帳」を次世代へ

明日からは、いよいよ21世紀です。次の世紀、次の世代に何を伝えるのかと問われたら、「それは願いです」と答えることでしょう。

手元に古くなった1冊のノートがあります。中には「午前4時20分、3,487グラム」などの数値と助産婦の氏名が記入されています。これは、私の「母子手帳」です。

ここには、「健康に気をつけて生涯を全うしてもらいたい」という親の願いが込められています。親が他界してしまった高齢者であっても、親の願いは生きています。世界には孤児も多くいます。しかし、人類の祖先は命を全うしてもらいたいという基本的な願いを掛け続けてきたはずです。

「母子健康手帳」は、昭和17年の「妊産婦手帳」に始まります。これが世界で初めての妊産婦登録制度でもありました。当時の妊産婦死亡率は、現在の約65倍。妊産婦の健康を管理することが重要でした。

この制度は、第二次世界大戦を生き抜き、小児まで拡大した「母子手帳」として昭和23年にその様式が定められます。その後、昭和40年に母子健康法が施行されて、現在の「母子健康手帳」になります。

手帳交付事務は、市町村で行われ、保健センターなどが窓口になっています。記載内容も全国統一内容だけではなく、より地域的なきめ細かい情報が盛り込めるようになっています。

世界にはユニセフで進めている成長カードなどがありますが、日本の「母子健康手帳」は出生前からの記録に始まり、親と子供を取り巻く多くの人々による子供の健康情報管埋という面で優れています。国際協力事業団(JICA)では、インドネシアで配布を始めています。また、点字解説書や外国人用に外国語版(英語、中国語など)を発行している自治体もあります。

少子化や17歳の事件などが社会的な問題として取り上げられていますが、親元を離れるときには、ぜひこうした「願い」とともに予防接種などを記録した「母子健康手帳」をお渡しいただきたいと思います。

さて平成3年から掲載を開始したこの「百薬一話」も来年6月で10年目を迎えます。当会の願いは、医療に対する関心を深めていただき、適正な薬物治療を受けていただきたいということです。読者にさまざまな情報をお届けし、薬物治療の質的向上を図っていかなければならないと考えています。

薬の知識にとどまらず、これを知恵として活用していただければ幸いです。