『第482話』 性病から性感染症へ
1999年4月に感染症新法が制定された。この法律では国が感染症に対する新たな基本的な政策を示している。このとき以来、「性病」という言葉も法律から消えた。
性的接触で感染する病気は、主に歓楽街での特別な商売にかかわった男女のみに生じる特殊な疾患であるという考え方があったため、予防法もその方面に力が注がれていた。
しかし、性病は「性感染症」という言葉に改められ、今や性的接触によりだれもが感染する可能性がある疾患と位置付けられた。特に、生殖年齢にある男女にとっては予防や早期発見が重要になっている。
現在、性感染症の中で最も多いのがクラミジア。次いで淋病、性器ヘルペス、尖圭コンジロームと続く。
女性の性感染症の半分以上はクラミジアで、これは子宮頚(けい)管に感染しやすい。クラミジアは細菌でもウイルスでもなく、細胞の中でのみ増殖できる細胞内寄生体だ。子宮頚管に炎症を起こすだけでなく、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤内感染症にまで及ぶこともある。クラミジアが増殖する感染症の初期には有効な抗生物質がある。しかし、いったん慢性化し、増殖も収まるとこの薬の効果は落ちる。
性感染症の問題は女性の方がはるかに感染しやすく、半面、症状が出にくいことだ。そのため治療が遅れてしまいがちで、卵管閉そくや狭さくの原因となり、不妊や妊娠しても子宮外妊娠になる場合がある。たとえ、抗生物質でクラミジアそのものを一掃できても、閉そくや狭さくは元に戻らず、ほかの治療が必要になる。
症状が出にくいことにより、母子感染の危険性が無視できない。子宮頚管にクラミジアを感染したまま出産すると、出世時に赤ちゃんが感染し、生後1~3ヵ月ごろ、その20~30%に結膜炎を発生し、10%程度が肺炎を発生すると言われる。
若い女性の中には婦人科受診をためらう人も多いと思うが、パートナーともどもクラミジアの検査が大切だ。ただし、一方が感染していても風邪などで処方される一部の抗菌剤によって偶然にも陰性化して治ってしまうことがあり、相手側にクラミジアが見つからないこともある。
また、このような薬はクラミジアの検出を分かりにくくすることもあるので、服用後2~3週間たってから検査を受ける方がよい。