『第483話』 低体温療法も時間との戦い
「頭を冷やせ」とはよく言ったものだ。感情が高ぶり、興奮した状態では正しい判断ができない、それどころか、余計な一言が事態を悪化させることさえもある。
実際に頭を冷やすと脳を保護することができることは、古代ローマ時代から知られていた。
脳卒中など脳に障害が起きたときには、しばしば体温が上昇する。風邪などの感染症による発熱と違って、脳に損傷があるときは1度や2度、体温が上昇しただけで脳の受けるダメージは大きくなる。
脳卒中は、くも膜下出血、脳出血、脳梗塞(こうそく)に大別されるが、実際に低体温療法がとられるのは脳梗塞の場合だ。体温を33~34度に保つようにする方法だが、脳梗塞を発症してから5~6時間以内の場合と限られる。
人間の体は36度ぐらいが一番効率良く働けるようになっている。体温が35度近くまで低下すると手足がぶるぶる震え出し、それによって熱を産生し体温の上昇をはかろうとするのだ。
小児では解熱剤の使い過ぎで低体温になることがある。35度以下になると、体の組織がダメージを受けて意識がなくなる。熱がぶり返すからといって短時間に解熱剤を連続して使わず、最低6時間は間隔を空けて1日2~3回程度の使用にとどめたい。
普通の人の体温を35度以下にしようとするなら、全身麻酔が必要になる。低温状態になると、各臓器の機能が低下していき、脳では血流が減りエネルギー代謝が低下する。そうすると、フリーラジカル、興奮性アミノ酸などの毒物が出にくくなり脳障害が進むのを食い止められるのではないかと考えられている。
体温が33度以下になると、心臓の働きが低下し重篤な不整脈が発生する。また、免疫機能も落ち、感染症にかかりやすくなる。この低体温療法の33~34度という温度は脳を保護しながらこれらの危険性を回避できる体温だ。
低体温療法をはじめ、脳卒中の治療は時間との戦いだ。早ければ早いほどよい。ただし、前触れがなく突然、発症するのも脳卒中の特徴で早期治療を難しくしている。