『第681話』 【病名変更】差別的意味合いを是正

「差別」とは、人としての権利を奪うことではないだろうか。医療では健常人と病人を区分・区別し、その違いが診断名になるが、そこに恣意(しい)が入り込んでくると差別の思いがわいてくる。もともと人は差別することを好むともいわれるが、その自覚がない。差別する心は、無意識の奥底に潜んでいるからだ。

典型的な例が、1996年に廃止された「らい予防法」だ。感染力が弱く、47年に抗らい菌薬のプロミンによって完治可能な感染症だと分かってからも、患者はいわれのない差別を受け続けてきた。らい菌は1873年、ノルウェーのアルマウェル・ハンセンによって発見された。今では彼の名前にちなんで、ハンセン病と呼ばれるようになっている。

昨年6月、障害者基本法の一部改正が行われ、その基本理念には「何人も障害者に対して、障害を理由として、差別すること、そのほかの権利、利益を侵害する行為をしてはならない」旨が追加された。そして12月、厚生労働省は「痴呆」を、「認知症」とするよう呼び掛けた。

厚労省の痴呆に替わる用語に関する検討会報告書には、痴呆が「あほう・ばか」に通ずるものであり、屈辱的な表現であることが言葉の分析によって確認できた、と記述されている。

同様に、99年に施行された「精神薄弱の用語整理のための関係法律の一部を改正する法律」によって、「精神薄弱」から「知的障害」になった。日本リウマチ学会は2002年、関節リウマチの病態解明が進み、早期発見、早期治療が重要視されるようになり、不治の病かのように不安を感じる「慢性関節リウマチ」という用語は適当ではないとして、「関節リウマチ」に病名を変更した。同年8月には日本精神神経学会が、「精神分裂病」を「統合失調症」にしている。

高齢社会を迎え、認知症高齢者の介護が課題となっている。記憶障害が進行していく一方で、感情やプライドは保持されるので外界に対して敏感になり、喪失感や焦燥感を抱き、これが怒りとなって表現されていく。認知症高齢者のケアの在り方は、その人の人生を尊重し、尊厳を保持する姿勢を基本としなければならない。

疾病名が変更されても本質が変わらなければ、元のもくあみになってしまう。常に人は「差別」と「区別」を意識し、命の尊厳を思考の基本に据える必要がある。