『第678話』 【薬効】心理状態が微妙に影響

 薬とは微妙なもので、薬理学的には同様の働きがあるはずなのに効き目が違うということがある。 rn 頭痛や生理痛を鎮めるために、フェナセチンという成分を含む薬が使われてきた。風邪の治療薬にはアスピリンのA、フェナセチンのP、カフェインのCと、それぞれの成分の頭文字をとってAPC処方と呼ばれる有名な処方例があるが、その場合にも使われてきた。 rn しかし、フェナセチン含有医薬品の長期・大量服用により、副作用として重い腎(じん)障害などの報告が短期間に相次いだこと、泌尿器系がんの発生リスクを増大させる可能牲があることが指摘され、平成13年4月に医薬品としての指定が取り消された。 rn 現在は、ほかのさまざまな鎮痛剤が使われているが、どうも効き目が悪いという訴えを受けた。アセトアミノフェンという成分を含有する薬を服用するようにアドバイスすると、それも駄目だったという。 rn フェナセチンは肝臓で代謝され、鎮痛・解熱作用のあるアセトアミノフェンと、重い副作用を引き起こす別の物質になる。従ってアセトアミノフェンを服用すれば余分な肝臓での代謝を必要とせず、少ない副作用で薬効が認められるはずなのだが、効き目が違うというのだ。 rn 実は薬の世堺では、やっかいな問題がある。それはプラセボ効果(心理的効果)だ。プラセボとは偽薬という意味で、薬の開発段階で成分を含む薬と含まない薬を被験者に服用してもらって、その効果を確認するときに使う。しかし、成分を含まない薬を服用しても、最大で約30%の人に効果があると判定が下るという。それほど人の心理状態は、薬の効果に微妙に影響する。 rn 最近、患者一部負担金(医療費)が安くなるという触れ込みで、先発品と同じ成分の後発医薬品の利用促進が図られている。「○○の薬が効く」と思い込んでいる患者が、成分は同じでも名称の異なる後発医薬品を服用したとき、プラセボ効果がどのような形で表れるのかは不明な点も多い。 rn また、成分が同じだからといって先発品と後発品の効果が同じとはいえない。それは、製剤技術に違いがあるからだ。錠剤を形成するときには成分だけでなく、錠剤を作るための製剤設計が必要になり、製薬会社ごとにその処方や剤形処理が異なる。これが薬効に影響してくる。フェナセチン以外は効き目が悪いという訴えも、プラセボ効果とともに製剤上の問題があると考えられる。 rn こうした効果の違いは、実際に服用して確かめる以外に方法がない。心もとない回答だが、アセトアミノフェンを含む薬は数社から別々の商品名で発売されているので、自分自身に合うものに巡り合うのを願うばかりだ。 rnrn