『第676話』 【サリドマイド】適正使用で薬害防止を

薬を方程式で表現すれば、「毒+医薬品情報=薬」となる。薬は毒になり得る化学物質を使い方などに工夫を加え、それに関する情報を蓄積する中で作られてきたからだ。一方、一般の人からは、薬は毒だから怖いという話をよく耳にする。毒と表現しているところに当てはまるのは副作用なのだろう。

生まれた子どもに奇形が起こる副作用が生じ、社会的な問題となった化学物質が薬として再度登場することになった。催眠鎮静剤として使用されたサリドマイドだ。

厚生労働省薬事・食品衛生審議会は先月21日、約1万人の患者がいるといわれる多発性骨髄腫(しゅ)という血液がんの治療薬の一種として、希少疾病用医薬品に指定することを決めた。これによって、医薬品としての承認審査が加速されることになる。

2003年2月2日付の本欄で将来、サリドマイドの復活があり得ることを書いた。同年から翌年にかけて、薬の有効性を確認する治験が行われるとともに、厚労省関係学会医薬品等適正使用推進事業として42ページにわたる「多発性骨髄腫に対するサリドマイドの適正使用ガイドライン」が作成された。

このガイドラインの冒頭に、サリドマイド被害者からのメッセージが掲載されている。被害を受けた薬を2度と使ってもらいたくないという悲痛な訴えの後、こう続く。

「しかし、サリドマイドにより救われる人がいるなら、誤りなく使用されることを念じます。薬そのものが悪い訳ではなく、過去の出来事を知らず、十分な知識がないまま使用する側に責任があると思います。(中略)サリドマイドを使うのであれば、厳しいルールの下での使用に限定すべきです。医療機関・医師・薬剤師そしてサリドマイドを必要とする患者・家族のみなさんなど、この薬にかかわるすべての人は正しい判断をしてください。(中略)私たちはサリドマイドによる新たな被害が発生しないことを願い、引き続きサリドマイドの適正使用について見守っていきたいと考えています」

国内でサリドマイドによる被害認定を受けたのは309人。こうした薬害を繰り返さないために薬剤師を含め医療関係者は、患者に必要な医薬品情報の提供を怠ることなく、薬の適正使用を図ることが大切だ。