『第670話』 【お薬手帳】正確な診断への材料に

「おじいちゃんは大切なものを探しています」という一言から始まるコマーシャルを放送している。探しているものとは「お薬手帳」だ。薬局では、お薬手帳の利用促進を図っている。しかし、その利用法が必ずしも理解されているわけではないようだ。

お薬手帳は、薬局で基本的に無料配布している。しかし、実際は薬局でさまざまな情報を記載して提供することが多く、そうすると医療費の自己負担率によって20円から50円の費用がかかる。

血糖値や血圧などの臨床的なデータや服用している薬の効能・効果、副作用などのさまざまな専門的な情報があっても、理解できなければ意味がない。そのために専門的な知識をあたかも学習塾で勉強するように、どこかで修得する必要がある。

医師も生活習慣病について、細かい生活指導を行う。薬局では、ほかの病院で出された薬との飲み合わせを調べる。そして、体調を尋ねて副作用が起こっていないかを確認する。また、話を聞くと薬を確実に服用していない人もいて、その理由や心配事について相談に乗ることもある。こうした相談は、いわば学習と同じ意味を持つ。

疾病治療には、患者さん自身の疾病への理解と医療関係者との協力体制が欠かせない。その共通認識をつくっていくために、現在服用している薬や疾病状態を記載した手帳が必要になる。

お薬手帳は診察に当たっている医師が、正確に病態を判断する資料にもなる。疾病治療はほとんどの場合、薬が必要になる。また、逆に薬が分かると、おおよその疾病状況を推測できる。転居したときや、旅行中に病態が変化して受診しなければならないときに、救急医が正しい診断を行う判断材料になる。

9年前の阪神大震災や、今年10月に発生した新潟県中越地震では、お薬手帳のおかげで疾病状況を素早く把握し、治療に役立った事例が多く報告されている。

お薬手帳に、日ごろの心配事や質問したいこと、体調について気が付いた変化を記入してほしい。それが、病気を克服していくための第一歩になる。