『第668話』 【肥満の食事量】40歳以上、20代の8割に

患者さんにお薬を渡そうとすると、「何も言わないで」と先に言われることがある。慢性疾患の患者さんなので、薬ののみ方をいちいち説明はしない。しかし、疾病が改善しているのか、指導通りにやっているか一通り状況を聞きたいし、聞けば当然、一言言ってしまう。これを予想して、言われることはすべて分かっているから何も言ってくれるな、というわけだ。

この人は体重80キロで糖尿病。ぜひ体重を落としてほしいと思うあまり、「ながら食い」「ついで食い」「不必要食い」などをしないよう懇々と指導してしまう。どうしても食べたいときのためにノーカロリー食品の献立表などを提案すると、かなりやる気になるのだが、結局はうまくいかない。

高血圧のほか、糖尿病、ぜんそくなども併せ持っているため、薬を選ぶ際に慎重さが求められる。例えば狭心症や不整脈に使用する薬、目薬も種類によっては、ぜんそく発作を誘発する。せっかく効果が期待できる薬剤があっても、合併症があると選択できないことがある。

肥満になると、脂肪細胞から分泌されるレプチンという物質の作用が弱まる。レプチンは「やせのホルモン」といわれ、これがうまく働かないと基礎代謝量は下がり、食欲は旺盛になる。肥満の人がなかなかやせられない原因が、ここにある。食べないでという注意も、逆に食べることを意識させる結果につながっていたようだ。

高血圧を薬でコントロールできても、糖尿病や肥満があると脳卒中の危険性は減らない。40歳をすぎたら満足するまで食べるのではなく、20代の食事量の8割ぐらいにし、必要な栄養素は何かを頭で考えながら食べてみる。

アルコールを飲むと血圧が下がるといってくる人がいるが、それはいっときである。アルコールを分解するには体内の水分が必要で、アルコール量が多くなれば、それだけ体の水分が減る。脱水症状が起こると血液は固まりやすくなり、血圧も上がって脳梗塞(こうそく)の危険性が高まる。

しかし、一合ぐらいのお酒では、善玉コレステロールが増えるという良い効果もある。毎日飲みたいのであれば、ぜひ一合程度を守りたい。