『第665話』 【インフルエンザワクチン】卵アレルギーは要注意

今年もインフルエンザワクチンを接種する時期になってきた。25年以上前になるが薬学部の学生の時、ワクチンの製造実習をしたことがある。この時、実験手技を誤り、薄めたインフルエンザウイルスが入った液を吸い込んでしまった。すぐに吐き出してうがいをしたが、翌日40度の熱が出た。確かにインフルエンザウイルスがいたことをわが身で証明し、免疫も得られて、その年はインフルエンザにかからなかった。

ウイルスは、生きた細胞の中だけで増殖する。そのため、増殖させる細胞として産み落とされてから10日ほどたち、胎児が形成され始めたころのふ化鶏卵を使う。

インフルエンザワクチンの作り方はこうだ。卵の丸みのある部分に空気が入っている気室があって、ここに穴を開ける。うまく開けられれば、皆さんが薄皮と呼ぶ卵殻膜が出てくる。これを滅菌したピンセットで丁寧にめくり、適度に希釈したインフルエンザウイルスを注入する。室温34度、湿度60%で48時間培養すると、卵の中は増殖したウイルスでいっぱいになる。そこからウイルスだけを取り出し、殺菌すれば全粒子の不活化ワクチンになる。

現在は、それから分子量30万以上のタンパク質を除いた後、タンパク分子とウイルスを分けて精製濃縮する。さらに発熱を引き起こす脂質成分をエーテルで溶かして除去し、免疫に必要な赤血球凝集素(HA)を主成分としたワクチンにしている。

こうして製造すると、インフルエンザワクチン1ミリリットル中の卵白アルブミン量は1ナノグラム(ナノは10億分の1)以下になる。WHOの指針では10マイクログラム(マイクロは100万分の1)で、日本のインフルエンザワクチンでは1万倍も少ない。しかし敏感な人では、ごくまれに卵アレルギーによる症状が起こることがある。従って、ひどい卵アレルギーの人は接.種を避けた方が良い。

インフルエンザワクチンは、65歳以上で1回、13~64歳では1、2回、13歳未満では2回の接種となっていて、2回接種の場合には1~4週間の間隔を空ける。後の祭りにならぬよう、ワクチンの接種で予防を図っておきたいものだ。