『第663話』 【唾液分泌量の低下】虫歯、味覚異常の原因に

味覚の秋を迎えて食欲が増進する。これも冬支度のために備わった動物の本能なのだろう。

経口で秋の味覚を楽しめればいいのだが、脳梗塞(のうこうそく)の後遺症などによって寝たきりの状態になると、嚥下(えんげ)障害による誤嚥性肺炎などが心配される。そこで、中心静脈栄養といって血管にカテーテル(細いチューブ)を留置して高力ロリー輸液を受けたり、鼻腔(びくう)から胃までチューブを入れる方法や、腹部からチューブを胃に直接挿入する胃瘻(いろう)を作るなどして、かゆ状にした食物を摂取している人がいる。

また、特定疾患のシェーグレン症候群では自己免疫疾患によって、唾液腺(だえきせん)が障害を受けて唾液分泌量が低下してくる。こうした障害や疾患のある人には、電動歯ブラシなどを使った口腔ケアが欠かせない。

唾液腺は、耳の下から顎(あご)にかけての範囲にある耳下腺、顎下腺(がくかせん)、舌下腺の三対の大唾液腺によって唾液の90%以上がつくられ、耳下腺管、顎下腺管を通って口腔内に分泌される。このほか、口腔、咽頭(いんとう)粘膜表面に多数散在する小唾液腺からも分泌されている。

唾液は、虫歯の原因となる微生物の増殖を防ぐ成分やカルシウム、リン、フッ素などのミネラル成分を含み、歯に防御膜を作って虫歯を防ぐとともに、口腔内のpHを一定に保つ役割を担っている。

唾液の分泌が少なくなると、こうした機能が失われるばかりでなく、虫歯、歯槽膿漏(しそうのうろう)などの歯周病、嚥下障害、口腔内のかいよう、味覚異常が出てくる。唾液の分泌量を調べる方法には、チューイングガムを十分間かみ、その分泌量を調べる方法(10ミリリットル以下は分泌低下)、口腔内にガーゼを入れてかみ、ガーゼに唾液を含ませ、その重量から分泌量を測定する方法(2分間で2グラム以下は分泌低下)などがある。

唾液分泌促進剤として、シェーグレン症候群では乾燥症状を緩和するために、塩酸セビメリン水和物を使う。しかし、単なる唾液分泌量の低下では健康保険が使えない。

「口の中がねばねばする」「味がおかしい」「虫歯や歯槽膿漏になりやすい」といった場合には、唾液分泌量が低下してドライマウスになっている可能性があるので、一度、受診した方がいい。

また、こうした症状を改善するために、唾液を補う口腔スプレー液などがある。薬局に常時置かれている商品ではないが、取り寄せて使用することは可能なので、薬剤師に相談してもらいたい。