『第659話』 【にがり】過剰な摂取に注意を

「にがり健康法」がブームのようだ。友人が「にがりを飲むようになったら、便通がよくなって健康になってきた」と言うので、大笑いしてしまった。笑いをこらえ、「前はどのくらい不健康だったの?」と聞いた。友人は、むすっとして答えは返ってこなかった。私は「今の生活態度では健康の維持などできないという自覚がなければ、何をやっても駄目」と付け加えた。

 笑ってしまったのは、にがりの成分が下剤としての効果を持っているのを友人が知らなかったからだ。にがりを飲む前の状況を聞いたのは、その生活習慣があまりに不規則で食事にも配慮がないのが原因で、なにもにがりで健康になったのではなく、また「健康でなければならない」という思いに呪縛(じゅばく)されている自分自身の心を自覚させ、これを解いてあげたかったからだ。

 にがりの主成分は塩化マグネシウムや塩化カリウムだ。かつては塩田で作った鹹水(かんすい)(濃い塩水)を煮詰め、その残渣(ざんさ)をろ過するなどして作った。食塩をイオン交換膜法で製造すると、天然にがりには含まれない塩化カルシウムの濃度が高くなる。

 にがりは苦汁と書くように、その味は苦い。天然塩には食塩(塩化ナトリウム)に若干のにがりが含まれていて、絶妙な塩味となる。にがりを豆乳に入れれば、固まってうま味のある豆腐になる。今は、硫酸カルシウムなどの凝固剤を使うことが多くなった。ちなみに、ラーメンの麺(めん)を作るときに使う水に、同じ読み方で鹸水(かんすい)と呼ばれるものがある。炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを主成分としたアルカリ性の水で、塩分が多い中国の鹸湖の水で小麦粉を練ったところ、グルテンの形成が促進されて食感が増し、小麦粉に含まれるフラボン色素が黄色に変化して、中華麺独特の色になったことからその名がついた。

 さて、にがりの主成分となっているマグネシウム塩は緩下剤として使う。腸からの水分吸収を阻害、便の水分量が増え便量が増えるとともに軟らかくなって、直腸に刺激が.伝えられ便通をよくする。こうした塩類下剤は、作用が穏やかで習慣性の心配もなく、症状ごとに服用量を調節することが容易で、優れた下剤となる。

 痩身(そうしん)効果を標ぼうしているようだが、これは薬事法違反で、下痢による一時的な体重減少にすぎない。摂取量が多くなれば、各種栄養素の吸収を阻害してしまう可能性があるので、長期にわたり大量に服用するものではない。

 マグネシウムは科学的根拠に基づいて、4月から栄養機能食品としての表示が認められた。1日当たり80~300ミリグラムの摂取量となっているので、これを守ってほしい。