『第655話』 【医療の倫理】ヒポクラテス精神今も

13日にギリシャのアテネで開幕した第28回夏季オリンピック競技大会では、29日まで熱戦が繰り広げられる。実施競技数は28、種目数は301にもなるが、日本のメダル獲得数がいくつになるのかなど、期待と興味は尽きない。

ギリシャを起源とする学問は多い。ソクラテス、プラトン、アリストテレスなどの哲学者の思想は、その後、西洋の数学、化学、天文学、医学へと発展していく。宗教的神話が形成されたギリシャにあって自然科学が発達していったのは、哲学を基礎とした議論が繰り返され、宗教という観念にとらわれずに、あるがままの事実を思考し、議論したからだろう。

中でもヒポクラテスは、医聖として近代医学の倫理形成に大きな影響を及ぼしている。その倫理観は今でも通用する。むしろ医療がサービス業といわれる時代にあって、「医は仁術である」ということを再確認させられる。

ヒポクラテスは医師となる者に誓いを立てさせたことから、これを「ヒポクラテスの誓い」と呼んでいる。要約すると次のような内容である。

-師を親のように慕い、金銭が必要なときはこれを分けます。その子孫は兄弟とみなし、術を学びたいと要求するのであれば、報酬を取らないでこれを教えます。能力と判断力の限りを尽くして患者さんにとって有益な治療を行い、死に至るような薬は、誰に頼まれても決して与えません。また、そのような助言もしません。堕胎のための器具は使いません。純粋・敬虔(けいけん)な精神で生涯を送り、医術を施します。患者さんの福祉のために医療を行い、男女を問わず、自由民であろうと奴隷であろうと差別することはありません。また、治療の機会に見聞したこと、私生活の秘密については沈黙を守ります。この誓いを破ることがなければ、すべての人から尊敬され、その生涯と術を楽しむことをお許しください。誓いを破り、背くようなことがあれば、これと逆の報いをしてください。

この精神は、1948年9月、スイス・ジュネーブにおける第2回世界医師会総会で採択された「ジュネーブ宣言」に継承されている。医療が経済行為と結び付くとき、それは医療の倫理が失われるときでもある。