『第653話』 【ウイルス性肝炎】肝硬変やがんへ移行も

かつて「肝炎の原因は?」と聞くと、アルコールの飲み過ぎという返答が多かったが、今はウイルスと答える人が増えた。

ウイルス、リケッチア、クラミジアといった細菌よりも微小な微生物は、生きた細胞がないと増殖できない。これらの微生物は自己増殖の遺伝子だけを持ち、動物や植物が細胞内に持っている遺伝子を読み取り、タンパク質を合成するリボゾームというタンパク質合成工場を使って増殖する。

ウイルスは向性といって、特定の細胞に入り込む性質を持っている。肝炎ウイルスは、肝細胞に侵入して増殖し、細胞を破壊して細胞外に放出される。同時に人の免疫機構も働き、肝細胞自体をも攻撃して破壊してしまう。

しかし、肝細胞は再生能力に優れた細胞で、すぐに新しい細胞をつくるが、これが間に合わなくなると解毒機能を持たない繊維化した細胞となって肝硬変となったり、がん化してしまう。

ウイルス性肝炎には、いくつかの種類があるが、特にB型とC型肝炎は、慢性肝炎から肝硬変を経て肝がんに移行することが懸念される。B型肝炎で約3割、C型肝炎で約7割の人が慢性肝炎を発症。その後、人によって異なるが、数十年を経て肝がんに移行すると考えられている。

B型肝炎ウイルスの感染者は、国内に150万人いると推定されている。成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、慢性化することはほとんどなく、急性肝炎を起こしてウイルスを排除する。乳児のころに感染すると、発症せずにウイルスを持ち続けるキャリアーという状態になる。これを防ぐため、1986年から公費で予防措置が取られている。母親がキャリアーの場合、出生直後に免疫グロブリン、その1カ月後からはワクチンを3回投与して感染を防ぐ方法だ。

B型慢性肝炎にもインターフェロン療法があるが、C型肝炎と異なり完全にウイルスを排除することは難しい。最近認可された抗ウイルス薬に、ラミブジンという薬がある。ウイルスの増殖を抑える効果を持つ薬で、ウイルスを完全に排除できないものの肝機能を安定させるのには効果がある。

このほか、さまざまな治療法がある。治療法は病態によって幅があるので、主治医から受けている治療法の特徴やそれを選択した理由の説明を受けて理解した上で、確実に薬を服用していくことが重要だ。